異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
アーティくんはエウゼくんとなかよくなりたいようで、しきりと話しかけていた。エウゼくんはローブのフードをかぶり、目を伏せて、頷くか首を振るかだけだ。……そういえば、サローちゃんも、四月の雨亭に来た時はフードを目深にかぶっていた。けもみみのひと達は立場が弱いらしいし、自衛策のひとつか。
「どうぞ」目の前にトレイを置くと、アーティくんははっとしてこちらを仰ぐ。「召し上がれ」
「あり、ありがとうございますっ」
元気なお礼に頷きを返して、隣のエウゼくんの前にもトレイを置いた。アーティくんはエウゼくんの顔を覗き込む。「エウゼ、フードかぶってて邪魔じゃないの?」
「アーティ、やめなさい」
兄に諭されて、アーティくんはしょぼんと肩を落とす。エウゼくんはそれをちらちら見ていた。
「おはよ」
セロベルさんが起きてきた。「はえーな。すぐ茶の用意する」
云ってから、セロベルさんはぴたっととまった。俺はにまにまする。
お茶はジーナちゃんが淹れてくれたのだ。セロベルさん程ではないけれど、充分上手に。
ジーナちゃんがセロベルさんを見上げる。「……勝手に淹れてしまったわ。ごめんなさい」
「いや。お前、律義だな。俺のいいつけを全部まもったんだろ」
セロベルさんは愉快そうだった。ジーナちゃんは、もじもじと居心地悪そう。
サッディレくん、アーレンセさん、ツァリアスさん夫婦も起きてきた。「セロベルさん、もうお客来てる」
「おお、いけねえ。ジーナ、お前先にくってろ。給仕はふたり要る」
「じゃあ、俺達で」
ツァリアスさんが手を挙げ、ベッツィさんが頷いた。
チーズマカロニは好評。おいしいもんね。ライティエさんがお鍋ごと食べそう。
意外と人気なのは、キャベツと人参のサラダだ。新鮮な葉野菜はおいしいものな。レモン汁たっぷりの爽やかな味付けも、こってりしたチーズマカロニに合う。
ジーナちゃんは、梨とぶどうの即製ジャムを気にいったようだ。結構甘いもの好きだよね。
「エウゼくんは、今は井でお仕事?」
肩越しに見て訊いた。エウゼくんはパンを置く。「……はい」
「そか。頑張ってるんだね」
巾着切りを有効に使っているようで、よかった。そもそも勘違いからやっていたことだし、この感じならもうすりはしないだろう。
セロベルさんが戻ってくる。「マオ。あと20」
「諒解です。あ、そうだ。旅芸人の一座が、市場でなにかやるらしいですよ。時間があったらみんなで見に行きましょうよ」
ジーナちゃんのほうをちらっと見てそう云うと、セロベルさんは微笑んだ。「ああ。じゃあ、昼は閉めるか」
ジーナちゃんが口許をほころばせる。興行をしていたことを知っているくらいだし、見たいのだろうと思ったが、当たっていたらしい。