異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
グロッシェさんがアーチを潜ってあらわれた。ジーナちゃんが、グロッシェさんが押してきたワゴンから、汚れた食器をとる。
俺はチーズマカロニを搔きこんだ。「すぐ食べます」
「いえ、あわてないでください」
グロッシェさんは澄んだ声でそう云って、鼻先をふよふよさせた。
それでもさっさと食べて、流しへ食器を下げた。ジーナちゃんはグロッシェさんと並んで、指南してもらいながらお皿を洗っている。「力をいれすぎると、とりおとしてしまいますよ」
「ええ……加減が難しいわ……」
ジーナちゃんは楽しそうに見えた。
ツァリアスさん達が戻り、セロベルさんがリエナさんを連れてくる。
焼けたクッキーをサッディレくん達と包んでいた俺は、顔をあげる。「お帰りなさい。リエナさん、おはようございます」
「おはよう。今朝はうちがいそがしくって、マオのごはん食べ損ねちゃったわ」リエナさんはくすくす笑った。「ねえ、旅芸人を見に行くんですって?」
「リエナも誘ったんだ」
甘酸っぱいじゃん。俺がにやにやすると、セロベルさんは口を尖らす。「なんだよ」
「べつにー。リエナさんも一緒で嬉しいです」
「うふふ。ジーナ、ミューってどこに泊まってるの? 誘えないのかしら」
その手があったか。流石リエナさん、見逃さない。
お皿を拭いていたジーナちゃんは、ゆっくりと小首を傾げた。「……無理だと思うわ。だいぶ、試験に落ちた子も出たし、帰る前に小鬼さんを連れて行くでしょうから」
「こおに?」
「ミューの、可愛くない弟」
ジーナちゃんは目を細める。チェスくんが苦手なようで、かすかに顔をしかめていた。
「甘ったれで、お菓子ばかりほしがって、ミューが居ないとすぐに泣きだすの。騒がしくってわがままで、わたしあの子嫌いだわ」
ジーナちゃんはお皿を戸棚へ仕舞いこみながら、低く続ける。「ミューの試験なんて口実で、小鬼さんの為に裾野へ来てるの。ミューが受かるのは火を見るより明らかですからね」
チェスくんの為、とは、どう云うことだろう。
俺は疑問だったのだが、その場にいたほとんどの人間が、得心したのか頷いた。サッディレくんだけはきょとんとしている。
「どういうことっすか」
「試験を受けに来たら、レントに滞在するでしょ?」ツァリアスさんが苦笑いで、サッディレくんへ云った。「地元に居るより会いやすいんですよ。シアイルの極東部から南西までなんて、いそいでも馬車で一月はかかります。それくらい離れた地域に住んでいるひと達と面識を持てる、いい機会ってこと」
「ああ、そういう……」
「親兄弟総出だって家族はほとんどがそれ目当てだぜ。商談、弟子入り、婚約や、下手したら結婚まで行われる。試験を受ける当人にしても、将来、あの年に自分も試験を受けました、なんて、会話の端緒になったりするしな。同じ年に試験を受けてたってだけで優遇されることもある。だから、望みがなくても届けを出すんだよ」