異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ばけつをとり落とした。灰が舞い散る。「マオ?」
「どうした……」
セロベルさんがばけつを拾ってくれた。俺は狼狽を隠して、お礼を云い、灰をかき集める。心臓がばくばくしている。
ツィークくんが風の魔法で灰をひとつところにまとめてくれた。「ありがとうございます」
「いえ~……」
灰を粗方ばけつへ戻し、外へ出た。
あれって、誰かが書き残したもの? 俺と同じ世界出身の誰かが。
ぐにゃぐにゃと歪んだような文字だった。こっちの世界のひとには読めない、と云うことは、もとの世界の文字だ。黒っぽいインクではなくて、血かもしれない。俺のように突然この世界へ放り出された誰かが、怪我をしてあれを書いたのでは。
ごみ置き場へ灰を捨てた。井戸端で手を洗い、厨房へ戻る。三人はまた、あの羊皮紙を囲んで話しこんでいる。「質のいい羊皮紙だな」
「そうよね。人工じゃなくてこれくらいとなると、ディファーズ産かな」
「協会でつかってるものじゃないのか」
「通し番号が振られてませんし~……あ、マオさん」
ツィークくんが俺の目の前に羊皮紙をつきだした。必死な調子の文章に、ツィークくんの気の抜ける喋りが重なる。
「これよめますかあ?」
おとうさんおかあさんごめん
ちがとまらない
どうしたらいいか
その下に、滴り落ちたような血(だと思う)と、指先をなすりつけたらしい痕がある。語、とか、目印? とか、焼? とか書いてあるように見えるが、掠れたり滲んでいて読めない。ただ、上に書いてある文章よりはかなり整った文字ではあった。
ツィークくんは前髪をすかして俺を見詰めている。俺はへらへら笑った。「すみません、俺学がないんで、全然解りません」
「……そ~ですかあ~」
ツィークくんが羊皮紙を仕舞った。俺はばけつを所定の位置へ戻し、みずやのなかからクッキーの包みをとりだす。「メイラさん、これおまけしますよ」
「マオったら、気前いいじゃん」
近付いていって、メイラさんへクッキーを渡し、耳打ちした。「あのこと、黙っててくださいね」
「解ってるって。でもあの祇畏士さまなら喜ぶでしょ」
それはそう。ほーじくん、俺が羽根を拾って持ってるって知って、喜んでた。
ほーじくんに羽根のことを告白済みだと、メイラさんは知らない。俺が動揺したのは、勘違いでメイラさんがそのことをほのめかしていると思ったから……ということで、どうだろう。丁度、祇畏士の話も出ていたし。
ツィークくんがこちらを見ている。俺はメイラさんへささやく。
「だとしてもですよ。それに、ほーじくんがよくてもサーダくんがどう思うか……」
「ああ、そっか」
「だから脅かさないで下さい。さっき祇畏士さまがって」
「は? さっき……ああ、違うよ。あれは、仲間が行に同行するってだけ」
メイラさんは口をぽかんと開けた後、俺の頭を撫でて大笑した。「恋してるねえ」
へへへと笑い返す。恋ね、恋。ってことにしておこう。……しておくだけ。……そういうふりだから!!