異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
市場は、何軒かは開いていた。俺はフードを目深にかぶってひとりで市場へ行き、食材を買い込んで、いそぎあしで四月の雨亭へ戻る。びしょ濡れになったので、サッディレくん達にお湯をわかしてもらい、お風呂にはいった。
収納空間は雨に影響されないから助かる。買ったものはどれも無事。
あたたまったし、さっぱりした。お風呂から出て、すぐに朝食の準備だ。レアディさんは来なかったが、ルッタさんは雨に濡れながらも来てくれた。ミスラ商会さんも。
なので、朝からパスタだ。
いい牛肉が手にはいったので、それを叩いてお塩・こしょう・クローブ・ナットメグ・たまごをまぜ、小さく丸めて揚げる。パスタは短く切って湯がき、お皿へいれる。スライスたまねぎ・にんにく・ローレルを炒め、ほんのちょっとだけシナモンを振って、ドライトマトと作り置きのトマトソースを加えて煮込む。そこへミートボールをいれて軽くソースを絡めたら、ゆがいたパスタの上へかける。しあげにパセリのみじん切りを軽く散らし、お皿の隅っこに、フライドエッグをひとつのせる。これでメイン完成。
キャベツと大根のとりストックスープと、なしのシロップ煮付き。おかわりは三杯までで、銀貨1枚。
ルッタさんとミスラ商会さんに味を見てもらった。おいしいみたい。よし。
「その話ならわたしも聴いたよ」
朝食を食べに来てくれたバルドさん、湿気で髪のうねりが凄くなっているライティエさんに、ディファーズでの人攫いのことを訊いてみた。ふたりはディファーズ系だ。
バルドさんはパスタを食べるのが苦手みたいで、お匙で押して切って、すくって食べていた。「わたしは廟にいったりしないけれど、きょうだいは行くから。裾野でもそういう事件が起きないかと心配していたな」
「わたしも聴いたことあるよー」ライティエさんはフォークで器用に麺をまきとる。「なんか、こっちにまで売られてきたひとも居るんじゃないかって」
「そうなのかい?」
「噂ねー。ほら、開拓者が行方不明になった時もあったでしょ?裾野にいるんじゃないか、とか。居る訳ないのに」
ライティエさんの言葉にバルドさんが頷く。居ますけどね。
どうやら、シアイルが開拓者の存在を秘匿するために、ディファーズで行方不明ということにした、という説があるようだ。ライティエさん達はそれを信じているらしい。
俺は笑顔で軌道修正する。「それで、ひとさらいのはなしですけど」
「マオ、どうして知りたいの?」
「ジーナちゃんって、今居るじゃないですか。彼女、あっちの出身だから、試験が終わってから心配だなって」
この間死亡フラグを立てていたから、今も心配なのだが。
メイラさんはおかわりのスープをすくう。
「成程ね。あの子、美人だもんね」
「あの子は強そうだし、大丈夫じゃないかな-」