異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
「あれ?でもじゃあ、協会へ一度行ったことがあるひとってことになりますよね」
「まあな。瞬間移動は、舞姫の追加の職業加護なんだよ。めったに追加されねえけど。だから、ずっと昔に協会へ這入った、その当時は瞬間移動を持ってなかったやつってこともあるだろ?で、ひとひとりくらいなら、頑張ればつれてけるらしいし」
セロベルさんはオムレツを頬張る。「ああ、見てみたいなあ瞬間移動。見たことないんだよ、持ってるやつ。どんな感じなんだろうな。……そういえば」
セロベルさんは、上品にミルクスープを飲むジーナちゃんを見る。
「ミュー、凄いな。医師でもあそこまでみたてが巧くないぜ」
「……そうね。彼は凄いの。癒しの力をふたつも持っているし、それに、もっとかわった特殊能力も持っているから」
隠密をもっているジーナちゃんが「かわった」というのだ。余程めずらしい特殊能力なのかと、セロベルさんの目が耀いた。
「なに持ってるんだ、あいつ」
「……秘密にするって約束なの」
ジーナちゃんがそう云うと、セロベルさんは残念そうだがひきさがった。特殊能力も職業同様、秘匿したがっているのを無理に暴いていいものではない。
お客さんが居なくなって、片付けが済むと、お給料をもらった。一日から三日の間にもらうのが普通なよう。これの為に、一日はご祝儀価格なのかも。
俺達みんな、先月の途中からの勤務だが、セロベルさんはひと月分の給料をくれた。そういうルールなのかな?
あと、ジーナちゃんも、お手伝いしてくれていると云うことで、銀貨数枚が支払われた。ジーナちゃんのお財布の中身と比べたら端金だが、当人は嬉しそうに見える。
ツァリアスさんが、ベッツィさんの服のかえがいると、買いものへ行きたがった。セロベルさんは心配みたいで、理由をつけてサッディレくん達を一緒に行かせる。俺はジーナちゃんと、パンを焼く練習。発酵させたパンはディファーズではポピュラーみたいだが、ジーナちゃんは酵母のつくりかたを知らなかった。一応教える。ディファーズに戻ったら、料理人さんにでも詳しくきいてね、とは付け加えておいた。
元種・バター・お水・小麦粉をよくまぜる作業は、やはりジーナちゃんは巧かった。体力がものをいうのがパンづくりである。俺が腕と腰が痛くてひいひい云っているのに、ジーナちゃんは平然とパン生地を調理台へ叩きつけていた。
「これを焼くの?」
「う、うん。でも、発酵させてからね。暫くこうやって置いておくんだ」
そう、とジーナちゃんはパン生地を片手でボウルへいれた。絶対ジーナちゃんとは喧嘩しない。負ける自信がある。