異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
たしかめられないことをそれ以上考えてもいられないので、俺はケータイをしまった。戻ったらまた追いまわされそうだし、妹は烈火のごとく怒るだろう。両親も黙ってはいないな。今からこわい。
身繕いしてから厨房へ行った。雨はやんでいる。グロッシェさんがお片付けしていた。ジーナちゃん、サッディレくん達でお手伝い。
「マオ、これ」
セロベルさんがなにやら差し出してきた。羊皮紙だ。半分に折りたたんで、白いリボンをかけている。
うけとった。「なんですか、これ」
「は?……あれだよ。読みゃ解る」
セロベルさんは耳をへたらせている。「さっき、シアイル系っぽいおぼっちゃんが、お前にって。あんまり期待もたせてやるなよ」
「はい?」
「あれだったら俺でもサッディレでも、かわりに断りいれてやるからよ」
首を傾げる。どういう意味?
サッディレくんがけたけた笑った。「セロベルさん、心配してるんだ」
「はあ?なにをだよ」
「マオをとられないか」
セロベルさんが、お鍋をしまいこんでいるサッディレくんをひっ捕まえた。きゃー、と楽しげに声をあげるサッディレくんにヘッドロックをかけている。
「それ」
じ、ジーナちゃん!いきなり背後に立たれるのはほんとに吃驚するんだよ!心臓がぎゅってなったよ!
ジーナちゃんは口をぱくぱくさせる俺に、淡々と云う。
「付け文ね」
「……はい?」
時代小説みたいな言葉が出てきたぞ。えっと。らぶれたーってこと?
アーレンセさんがくすくすした。「ジーナさん、古い言葉を知ってるんですね」
「……ふるいの?」
「あ、ディファーズではそう云うんですか?」
「そうね。多分。演劇ではそう云うから」
ジーナちゃんは、俺の持つ羊皮紙を、右手でそっと撫でた。「羊皮紙に、白いリボンや糸をかけてあるのは、付け文よ」
へー。様式美ってやつ?
アーレンセさんがちいさな脚立を降りて、木箱をテーブルへ置いた。
「そう決まってる訳じゃないんですよ。白いリボンや糸をかけてある手紙は、他人が勝手に開けたり、読んだりしたらだめなんです」
「そうなのね。知らなかったわ」
俺は羊皮紙の手紙をひっくり返す。マオさんへ、と書いてある(ように見える。言語スキル便利)。
「でも、これは付け文っぽいわ」
「ですね」
「読んできます」
いいおいて、中庭へ出た。サッディレくんがセロベルさんの肩に担がれながら、ちゃんと断るっすよー、といっている。
ベンチへ座って、リボンを解く。ラブレターではない気がしたら、案の定だった。テイズから、「融資」についてのおうかがいだ。