異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ヨーくんが地図をゆびさしながら教えてくれたので、俺とサキくんはお礼を云って詰所を離れた。送りますよ、というのを遠慮して、揚げパンを買い込み、布地工場へ向かう。
お針子のおねえさん達が云っていた通り、レントの南東には、布地工場がかたまっていた。ヨーくん情報に拠れば、リボンを扱っているのはそのなかでも大きな工場で、ふたつくらいらしい。
「なにか買うんですか」
「うん。リボン」
りぼん?とサキくんは小首を傾げる。お菓子の包みにかけるのだと云うと、サキくんはこっくり頷いた。
「それは、可愛いでしょうね。女性にうけそうだ」
「女性陣が盛り上がっててね。可愛い箱にいれたり、綺麗なリボンをかけてあるのがいいって。俺も、見た目って味の評価につながると思ってるからさ」
同じものを食べるのなら、綺麗な食器に綺麗なテーブルのほうがいい。お惣菜買ってきても、食器へ移し替えるだけで、食べる時に侘しさが減る気がする。
色合いなんかも大事。おいしく見えない組み合わせってあるよな。
「そんなことまで気にしないといけないんですか。大変ですね」
「そうでもないかな。おいしいものはちゃんと食べたいもん。折角頑張ってつくったのに、まずく見えるのは不本意だよ」
特に今は、食事の評価がお店の評価へ直結してしまう。成る丈手は抜かないようにしなくてはならないのだ。リボン代くらいは、バターの量をへらすなりなんなりで調整できる。豚肉食べないひとが居る割に、ラードは大量に売ってるし。……あれって還元ラードなのかも?
「あ」サキくんがゆびさすほうを見た。「あれですね」
「おお」
布地工場は、大きな建物だった。がらすのはいっていない大きな窓がずらっと並んでいて、そこから湯気がもくもくとあふれ出ている。大きな両開きのドアが出入り口みたい。開け放たれていた。馬車が三台あって、それらに布地が運びこまれていた。
で、その建物の前に木箱が幾つも並んでいて、布地が山と積まれていた。そのまわりで、布地を運んでいるひと達に、話しかける。「ごめんください」
「はい?」
壮年の男性が腰を伸ばした。手拭いで汗を拭う。
「あの、リボンを買いたいんです。こちらで扱っていますか?」
「ああ、リボンね。そっちの箱のは全部、ひと巻きで銀貨1枚だよ」男性はくいと背後を示す。「あっちに会計のやつがいるからよ。買いてえもんが決まったら呼んでくれや」
ありがとうございますと頭を下げる。男性は頷いて、布地を運ぶのを再開した。すげー量運んでる。
「おう、終わったぜ」
「ありがとよ。おい、出発するぞ」
馬車が一台出て行くのを横目に見ながら、俺はリボンの詰まった木箱を覗きこんだ。