異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
サキくんはお財布をとりだして、中身とにらめっこする。店員はにこにこして待っていた。
「……うん」サキくんは頷いた。「買います」
店員が小躍りして喜んだ。ありがとうございますう、と2オクターブくらい高い声で云って、サキくんの差し出した貝貨をうけとり、すぐにおつりを持ってきた。「決して損にはなりません。この杖なら、弱い魔物を殴るくらいではびくともしませんよ」
「はは、頼もしい杖ですね」
サキくんはおつりをお財布にしまう。杖を持ち直して、こちらを向いた。
「すみません、付き合わせてしまって」
「ううん。俺、こういうお店はじめてきたから、面白かったよ」
「じゃあ、出ましょうか……」
店員がぺこぺこした。「またお越し下さいませ」
店員に見送られて外へ出た。サキくんは両手で杖を抱えている。「重い?」
「それなりに。いつもの杖よりは重いですけれど、槍よりは持ちやすいです」
「いいのが見付かって、よかったね」
「はい。あのひとに近付けるかな……」
サキくんは口許をほころばせて、目を軽く伏せた。「かわいい、っていきなり云ったら、気持ち悪がられますかね」
「うーん……」
ひとによるなあ。誰に云われてもいやだってひとも居るし、サキくんくらいの美少年だったら嬉しいってひとも居るし、逆に美少年に云われたら気色悪いってひとも居るし。
「親しくなってからがいいかなあ。たぶん。たぶんね?」
「そうですか。そうですよね。いきなりは不躾ですよね」
「そうそう」
そんな感じ。
サキくんは夢見るような表情だ。目がとろんとして、頬がうっすら赤い。「素敵なんですよ。強くて、勇ましくて、でも可愛らしくて」
「どんな子なのか気になるなあ」
「……マオさんの知ってるひとです」
俺の知ってるひと?
俺は目を落とす。条件を指折り数えて確認した。受験生、で、ロア出身ではなくて、それなりに高い家名。
……。
……!
まさかユラちゃんか?!
ばっ、とサキくんを見た。サキくんはにっこりする。「あの……もしかして……そのひとってこう、撫子みたいな色の髪?」
なんだかこわかったので名前は云わなかった。しかしサキくんは頭を振る。ユラちゃんじゃないの?
……魔力切れを起こしたんだっけ。てことは、ユラちゃんは違うか。自分の魔力量をしっかり把握してるっぽかったから、魔力切れでぐったりなんてことにはなるまい。それに、華麗な剣技、だったよな。ユラちゃんなら華麗な魔法だ。じゃあ。
あ。
すでに試験に通った、許嫁のようなひとがいる……って。
それって、もしかして、……ジーナちゃん?