異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
パンケーキを食べてしまうとサキくんは、もうそろそろ戻らないと、と、名残惜しそうにしながら西のほうへと歩いて行く。また来てねー、と手を振った。サキくんは軽く杖を振って応じてくれる。笑顔が綺麗だ。
俺は四月の雨亭へ針路をとる。収穫はあったし、サキくんとお喋りするの楽しかった。相談にはあんまりのれてないけど。
うきうきして、軽いあしどりで進む。リボン、短すぎるやつは蝶々結びの形にして糸でとめて、包み紙に縫いつけるってのはどうだろう。可愛いんじゃないかな。
四月の雨亭へ戻る。中庭側から厨房へ這入ると、お客さんが多いらしくセロベルさん達は忙しそうだった。リエナさんが助っ人に来てくれている。
「戻りました。遅れてすみません」
「おお、マオお帰り」
「おかえりっすー」
俺は手を洗いに流しの前に立つ。ジーナちゃんはテーブルについて、クッキーを包んでいた。サキくんが頭をよぎる。にやにやしそうなのを怺えた。
オーブンから天板をとりだして、リエナさんが云う。「マオ、今日はたまごを沢山いれたクッキーにしたわ」
「ありがとうございます」
頭を下げる。リエナさんはくすくす笑った。
よく洗った手を拭いて、クッキーのたねをつくる。ジーナちゃんが、クッキーの包みを詰めたかごをワゴンへのせて、こちらへ近付いてきた。「おかえりなさい」
「うん、ただいま」
「危ない目にはあっていない?」
「ぜんぜん」
ジーナちゃん、どうして疑いの目で見てくるのですか。
俺がクッキーのたねをつくり、ジーナちゃんがそれを天板へ落とし、リエナさんが焼く。焼けたクッキーはクーラへ移され、ベッツィさんがお皿へ盛り付け、ツァリアスさんが紙で包む。
ちらっと食堂を見たところ、シアイル貴族っぽいひと達が居たので、それでツァリアスさん達は隠れているのだろう。
リボンはテーブルへ並べてある。アーレンセさんが目をきらきらさせているし、グロッシェさんの耳がぱたぱた動いていた。
お茶を淹れて戻ってきたセロベルさんが、耳打ちしてくる。
「高かったんじゃねえのか、あれ」
「そんなでもないですよ。ひと巻きで銀貨1枚」
「ほんとか?安いな」
「工場にまで行って、色むらとかひきつれのあるのを買ってきましたから」
その手があったか、とセロベルさんに感心された。ふふん。
ツァリアスさんは器用で、包みに綺麗にリボンをかけてくれた。異なる色のを二本かけて、なんかいい感じに結んだり、菊の花みたいなのをつくったりしている。凄いですねと云うと、ツァリアスさんはにこっとした。「こういう技術は、重宝されますから」