異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
「シアイルは、食糧事情が厳しいですから」ベッツィさんは苦笑いらしいものを浮かべた。「ご飯を食べられる時は、そのことにしっかり集中しろ、ということじゃないかしら」
「そんなことだろうね。その所為で食事が詰まらなくなったら、結局食事に感謝できないから、逆効果だと思うけれど」
ご飯を静かに食べたいひとにはありがたい習慣だろうけれど、お喋りも食事の一部と捉えているタイプには辛い。俺は、沢山食べられるならなんでもいい。でも、おかわりだけは云えないと困るな。
ジーナちゃんがぼそっと云った。「わたしはお喋りしたいわ」
なんか意外。
注文が落ち着いてきたので、まかないをもらった。ジーナちゃんと一緒だ。チーズのとろけたぎゅうぎゅう焼き、旨い。発酵させてないパンの歯応えも結構好きだな。小麦の香りが強いところもいいよね。
「お買いもの」
ジーナちゃんはパンを千切って、バットの底を撫でて食べている。俺も真似した。脂がパンにしみこんでたまらなく旨い。
「時間がかかったけれど、本当になにもなかったの?」
ジーナちゃんは横目で俺を見ていた。俺はパンをもぐもぐする。出会いかたがあれだったせいか、ジーナちゃんは俺を過剰なくらい心配してくれる。
「だいじょうぶだよ」にこっとした。「途中でサキくんと会って、一緒に行ったんだ」
「サキ……?」
ジーナちゃんが小首を傾げる。サキくんの名字を知らないので伝えようがない、と思い至った。
「一緒にってっ」サッディレくんが反応した。「誰かと買いもの行ったの?マオ」
「おいサッディレ、チーズ足りなくなるぞ」
サッディレくんは、チーズをスライスしていたナイフをまないたへ置く。ぎろっとセロベルさんを睨む。
セロベルさんは、グロッシェさんが綺麗に洗ったバットに、お肉とお野菜を並べていた。オーブンの管理はツァリアスさんだ。
「セロベルさん気になるっすよね」
「ア?」
「マオが、誰と買いものしたのか」
はあー?とセロベルさんは心底面倒そうな声を出した。サッディレくんはむくれている。
「マオ!」ぐいとこちらへ顔を向け、サッディレくんはつかつか近付いてきた。「誰っすか、その、サキって」
「えーと、ほら。二回くらい来てくれた、お客さん。ここに」頭の上部左右をしめした。「大きい蝶々結びした女の子と、一緒に来てた」
「はあ?……あ」
サッディレくんもサキくんを覚えていたらしい。そりゃあ、美少年だからね。
サッディレくんは口を尖らし、顎を撫でる。「……マオ、見た目重視するんだ」