異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
戴けないですとは云えず、あのーえっとーえへへとやっているうちにツィークくんに腕を掴まれ、引っ立てられた。
ツィークくんはウエイトレスさんに云って、奥の部屋へ行こうとする。
「おにいさん?」
扉の前でツィークくんのあしが停まった。
ティーくん、リーニくんが、俺達を阻むみたいに立っている。
リーニくんがにこやかに云った。「その子、娼妓じゃないんだ。放してあげて」
ツィークくんが俺を見、リーニくんを見る。
「君らに指図される謂われはない」
「あんたになくてもそいつにはあんの」ティーくんがずいとツィークくんに身を寄せた。ツィークくんはのけぞる。「娼妓には娼妓の掟がある。勝手をされちゃあ示しがつかねえ。おわかり?」
「そうそう。だから、僕たちから選んでもらえます?おすすめは僕かな」
リーニくんがにこにこして、俺の腕からツィークくんの手をはぎとり、そのままツィークくんにぴったりと身を寄せる。
ツィークくんは片頬を引き攣らせていた。「悪いけど、このひとに用事がある」
「だから」
「リーニくん、ティーくん、大丈夫」
ふたりが俺を見た。「営業はしないから。約束します」
「……本当?」
「しません。しまは荒らさない」
リーニくんとティーくんは目を合わせ、それからさっと左右に分かれた。ティーくんが云う。
「こっそりやるつもりなら、ばれるぞ」
「やらないから」
ツィークくんが再び俺の腕を掴み、扉を開けた。俺はふたりに手を振って、奥の廊下へと這入っていく。ふたりは心配そうだった。いい子達だな。
廊下は長くて、道案内のおねえさんが居た。俺とツィークくんは無言で、おねえさんについて歩く。通された部屋は、でんとキングサイズのベッドが置かれ、高級そうな化粧品の並んだ鏡台があって、雰囲気たっぷりのランタンが炎をゆらめかせている。「ごゆっくりどうぞ」
椅子がない。ツィークくんは溜め息を吐いて俺をベッドへ座らせ、自分はかなり離れたところへ座った。あ、扉がある。
立ち上がって、小さな扉を開けてなかを覗いてみる。浴室だ。まあまあ、準備と後始末が必要不可欠だもんね。
「……なにしてるんですか」
「え」
振り返った。ツィークくんは口をへの字にしている。
俺は後ろ手に扉を閉めた。後ろ手に扉を開け閉めできるタイプの人間。
「どんなふうなのかなーって。えへへ」
「あなたと話してると調子が狂う」
俺はひょいひょいとベッドの近くへ戻り、座った。ツィークくんの隣にだ。すんごく迷惑そうにされた。でも、うすぐらいので、近くのほうがいい。ツィークくんの様子をちゃんと見ていないと、失言しそうだから。