異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
俺とツィークくんは腕を組んで廊下へ出た。来た道を戻ると、途中で道案内のおねえさんがあらわれる。みちは覚えているから案内は必要ないのだが、おねえさんは俺達の先に立って歩いた。
シアイルだかディファーズだかの貴族の裾野邸だから、普通にひとは住んでいる。迷って家主一家の部屋へ這入ってしまうひとが居るのかもしれない。今の時間帯なら寝てるだろうし、迷い込まれたら迷惑だよなあ。
ツィークくんは、あの高級そうなローブを、けだるーく着こなしている。さっき、ツィークくん稼ぎがいいの?と尋ねたら、ただの傭兵じゃこんなの一生かかっても買えません、と呆れ顔をされた。傭兵協会が、なにかの事件の折押収したものだそう。潜入捜査の小道具という訳。
下に着てるチュニックも上等そうだったし、ベルトも凄く凝った配色のマクラメだった。全部押収品だって。なんにせよ、お大尽感あふれている。巧くいくといいんだけど。
賭けをやっている部屋へ戻る。ティーくんが壁際で仲間達とお酒を呑んでいて、俺に気付くと表情を険しくした。俺とツィークくんが腕をがっちり組んで、べったり身を寄せ合っているからだろう。
グエンくん達も、俺の様子をうかがっている。あしを洗っていて、そちらでは稼がないもと・娼妓、という設定だからな。縄張りとか掟とかあるのかもしれんし。
だから、ティーくんの心配げな視線も、グエンくん達の怪訝そうな表情も、理解できる。……賭場のお客達まで、なんか吃驚したみたいな顔でこちらを見ているのは、なに?
案内のおねえさんが俺達へ会釈して、扉の向こうへ居なくなった。ツィークくんが俺の耳許へ低声で云う。
「視線が痛いですよお」
そうだなあ。なんなんだろ。
俺達は笑みを交わして、カウンタへ行った。ラスターラ邸のは急拵えだったけれど、ここのはしっかりしたバーカウンタだ。賭場で稼ぐための投資か。
「ゴブレットにいちごいっぱいいれて、黒砂糖振りかけて、お酒いれて」
居丈高に云って、にっこりして付け加える。「このひとの分は、お酒じゃなくて牛乳ね」
かしこまりましたとバーテン(おねえさん)はにこやかにのみものをつくる。ツィークくんは原理的な信仰を持っているので、お酒は呑まない。ちゃんと訊いておいた。
ゴブレットを軽く打ち合わせて、お酒を呑む。ツィークくんはいちごミルク。ああ、あっちでもよかったかな?いちごミルクおいしいじゃん。このいちご、もとの世界ならひとパックが漫画数冊相当くらいの値段だと思う。おじさんの旅館で春先にだけお茶請けにしてたやつ。
まあ後で頼めばいっか。それじゃあ、潜入捜査の腕の見せどころだぜツィークくん。