異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
「ああ、よかったね」
サキくんの声は元気がない。リオちゃんは小首を傾げ、剣をしまった。
ユラちゃんがじたばたして、リッターくんの手から逃れた。「なにすんのよ!」
「さあ」
「はあ?!」
ミューくんが戻ってきたが、ユラちゃんの怒りの矛先はリッターくんに移っているので、ミューくんはスルーだ。「あんたは、わたしの、配下でしょ!!偉そうなのもいい加減になさいよ!」
「偉そうにしたつもりはない」
あんたねーッ、とユラちゃんがリッターくんへ飛びかかるが、リッターくんはひょいひょい躱している。
ミューくんはリオちゃんとサキくんを見留め、特に返り血を浴びているうえにジャンパースカートが一部裂けているリオちゃんへ、にこっとして杖を振る。「恢復しましょうか」
「まあ、ありがとう、癒し手さん」
「癒し手ではないですよ」
ミューくんは律儀に訂正して、リオちゃんの手をとって恢復魔法をかけ、サキくんにもそうした。リオちゃんがにっこりしてお礼を云い、サキくんも微笑んでお礼を云う。
「ミュー」
ジーナちゃんがミューくんのローブを引っ張った。表情はうすいけれど、なんだか……怒っている?
ミューくんはジーナちゃんを見て、首を傾げた。ジーナちゃんは口を開け、閉じ、また開ける。「どうして来たの」
「どうしてって……心配だったからだよ」
「わたしは大丈夫。あなたより強いのだから」
ジーナちゃんは、自分だってミューくんの様子を見に行こうとしていたのに、投げつけるようにそう云って、ミューくんのローブをぎゅっと掴んでいる。
「怒らなくたっていいだろ?」
「怒ってないわ……」
リオちゃんがにこにこした。「まあ、可愛い恋人さん達ね」
ああ、リオちゃん、それは云っちゃだめだよ。サキくんは口を噤んでしょんぼりしてるし、ジーナちゃんはリオちゃんから目を逸らした。
……もしかして、ミューくんがリオちゃんの手を握ったから、妬いてるのかな、ジーナちゃん。サキくんとミューくんで揺らいでるってこと?
ミューくんはジーナちゃんの腕を軽く叩き、もう一度恢復魔法をかける。「なんだいジーナ?君らしくないぜ」
「なんでもない……」
「なんでもないようには見えないけれど」
サキくんがリオちゃんの手をとった。表から、サキさま、リオさま、と、複数の声がする。「帰ろう、リオ」
「ええ、そうね」
「マオさん、また」
サキくんがつくり笑いでそう云って、リオちゃんの手をひいて居なくなる。ユラちゃんがリッターくんを殴ることを諦めた。「なんなのよッ」
「ミュー」
ジーナちゃんが、低声で云う。俺の耳にはしっかり聴こえた。「あなたは、女の子に好かれやすいの。安易に手を掴んだりしないで」