異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
七人はおいしそうに食べてくれた。運動したら、水分塩分糖分は補給しなきゃね。俺と違って皆さんお水は出せるので、マグやなんかがもしもの時邪魔だろうと判断してお茶は省いた。
「なかなかね」
ユラちゃんが頷いた。隣のジーナちゃんが片眉を吊り上げる。ミューくんが危険を察知して、ジーナちゃんと位置をかわった。
ぺろっとふたつ食べたユラちゃんに、トレイを差し出した。ユラちゃんはもうふたつとる。ジーナちゃんがきこえよがしに云った。「まあ、沢山召し上がること」
「ジーナ」
ミューくんがたしなめると、ジーナちゃんはぷいとそっぽを向いた。
ユラちゃんは口のまわりにクッキーくずをつけて、ふんと鼻を鳴らす、
「魔法をつかうと魔力を消耗するのよ。ご存じないのかしらエンバーダート嬢?ああ、そういえば、あなたは魔法が得手ではなかったわね」
「ええ」ジーナちゃんは横目でユラちゃんを見る。「あなたより筆記試験では上だけれどね」
ユラちゃんとジーナちゃんが睨み合う。こわいよー。
リッターくんがユラちゃんと場所を変わった。済まん、と低声でミューくんへ謝っている。ミューくんは苦笑い。
ユラちゃんは、ジーナちゃんへ飛びかかるのは諦め、かわりにクッキーをぱくっと大きな口で食べてしまった。俺は話題をかえようと、リッターくんへ云う。
「ふたりとも、どうしてここへ?お邸は大丈夫なの」
「ユラが、お前の菓子を食べたいと、買いに来る途中だった。表に馬車を停めてある」
「……えーと、おつきのひとは?」
「御者は連れてきたが、後は、菓子を置くために邸へ残してきた」
馬車いっぱいお菓子を買うつもりだったのか。ユラちゃんって豪快。
ユラちゃんがクッキーを飲みこんだ。「だから別に、あんたが心配で駈けつけたんじゃないから、勘違いしないのよ」
「うん。でもあんな凄い魔法、ありがとね」
ユラちゃんに軽く頭を下げると、ふんっと鼻を鳴らされた。ただし、得意げに。
「ま、解りゃいいのよ解りゃ。わたしは弱い者には優しいの。……ああ、リッター、あんたいいの?」
「……なにがだ」
「なにがって、カイザサイグ嬢よ。あんた一応許嫁でしょうに」
呆れ声のユラちゃんに、リッターくんは首を傾げる。本気で意味が解っていないようだ。ユラちゃんも察したのか、いえもういいわ、と打ち切った。
やっぱりリッターくんにも許嫁居るんだ。ユラちゃんがここから動かないところを見るに、当人には許嫁はいないと見た。風評被害でお姉さんの縁談がだめになってしまったそうだし、もしかしてその余波がユラちゃんに来たのかも。