異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
一度テイズとマイレに営業妨害をされたけれど、観光案内はレントの外から来たひと達こそしっかり目を通す。テイズ達のやったことを知らない新規のお客さんが増えるということだ。ウロアがテイズ達を何度も送り込めば、流石に警邏隊が出動するだろうし。
だから、内部から切り崩そうとしている、のだと思う。俺がウロアでもそうする。
賭けにお酒という、裾野では眉をひそめられるものにがっつり手を出している、風体の怪しいもと・娼妓(自称)である。適当にいいくるめて借金塗れにするなんてなんでもないと思っているのだろう。
「これ、名前書けばいいの?」
「お、乗り気だねえ」
俺は文面をしっかり読み込む。アケイチの複利。担保は四月の雨亭。保証人はなんとセロベルさんだ。こんな契約結ぶばかが居ると思ってんのかこいつら。
俺は羊皮紙を収納した。「名前書いて持っていく」
「今書いてくれてもいいんだぜ?」
「……そういうふうに急ぐ男はきらい」
耳許にささやいてやると、テイズはにやにやして、俺の指を軽くかじった。ひいいいいい。「いいな、お前。リューみたいなにやけた男と宜しくやってないで、俺に乗り換えろよ」
「テイズ」マイレが云った。「仕事中ですよ」
「解ってるよ。でも、こんなに肝が据わった娼妓はなかなか居ねえぞ。マイレ、お前だって興味があるだろ」
いいえ別に、と云うマイレの声に、嫌悪がにじんでいた。多分、俺に対してでもテイズに対してでもなく、自分に対して。
見る。マイレは目許に険があり、俺と目が合うとすっと下を向いた。テーブルの上に置いた手が、神経質そうに爪を弾いている。
「じゃあ」ぱっと手を振り払い、営業スマイルを浮かべる。「少々お待ちください」
「ああ、待ってるぜお姫さま」
ワゴンを押して厨房へ戻り、手をよーく洗った。うー気分悪い。
「給仕、足りてますか」
中腰で訊いてきたツァリアスさんに、笑顔を向けた。「大丈夫ですよ。あ、ジーナちゃん」
お祈りを終えたジーナちゃんが、焼けたパンをとりだして、次の天板をいれている。
「先に食べててよ。試験までに軽く腹ごなししておかないとでしょ?」
「……解ったわ」
ジーナちゃんが席に着いた。俺はその前にトレイを置く。グロッシェさんはフルーツサラダを気にいったみたいで、お皿がからだ。おかわりいります?と訊くと、含羞んだような頷きが返ってきた。
グロッシェさんにフルーツサラダのおかわりを出し、ベッツィさんには食が進むようレモンのドレッシング(レモン汁とお醤油を2:3でまぜたもの。お鍋のたれにしてもおいしいし、スープにいれると爽やかな香りが立っておいしい)を渡して、お膳を整え、運んでいく。テイズとマイレは、いつぞやと違ってとても大人しかった。