異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
「じゃあ……行ってくるわ」
「うん」
ジーナちゃんは、動きやすそうな、すっきりしたシルエットのドレスにきがえ、しっかりした革のブーツを履いている。うすでの毛皮のローブが高級感にあふれていた。
試験へ出発するのだ。もしかしたら、夜までかかるかもしれない、らしい。
「これどうぞ」
俺はお弁当を差し出す。発酵させたパンに、衣をつけてからっと揚げた豚肉・甘辛く炒めた千切りキャベツをはさんだものと、たまごを多めにいれて分厚く焼いたパンケーキに、うすく切ったローストビーフ・水切りヨーグルトと味噌を混ぜたもの・千切って炒めたレタスをはさんだものの、ふた種類のサンドウィッチがはいった紙包みだ。ジーナちゃんの髪と同じ色のリボンを結んである。
その上に、マシュマロをはさんだクッキーのはいった、小さめの紙包みものっている。そちらは金色のリボンを結んだ。ジーナちゃんの瞳の色だ。
ジーナちゃんはこっくり頷いて、お弁当をうけとる。「ありがとう」
「途中で事故に会わないようにね。試験で怪我しないで」
「ミューみたいなこというのね」
ジーナちゃんはくすっとする。グロッシェさんがその腕へ軽く触れた。
「ジーナさんは優秀ですから、こんなこと必要ないでしょうけれど……」グロッシェさんは目を伏せる。「わたしに戴いた、裁定者の加護が、ジーナさんへ移りますように」
「まあ、グロッシェさん……」
ジーナちゃんがちょっと声を震わせた。グロッシェさんは鼻先をふよふよさせて、にっこり笑う。「セロベルには、夫があげたんです。わたしのは残っていましたから……」
「でも、いいのかしら」
「はい。だって、わたしの入山試験は、とうの昔に終わっています。今からそれに向かうジーナさんの役に立てたほうが……きっと、裁定者も喜びますよ」
ジーナちゃんは目をきらきらさせていた。
ジーナちゃんは、歩きで試験会場へ向かっていった。お付きのひとも、迎えもない。それは、エンバーダート家の方針なのだそう。ミューくんが癒し手になる以上、それをまもれる程の戦闘力がジーナちゃんには求められる。まちなかをひとりで歩けないくらいのお嬢さまではだめだ、ということらしい。
裁定者の加護、というのは、試験に受かったひとにあるとされるもの。
普通は、試験を受けに行く子どもや孫に譲渡する。まあ、目に見えないものだし、あるかどうかもはっきりはしていないから、要するに気休めだ。
なんだけど、その気休めがあるかないかは大きな差になる。魔法や還元が存在する世の中だし、神さまは居るって考えが普通だからな。
ジーナちゃんが角を曲がって、その姿が見えなくなると、グロッシェさんは踵を返した。俺も続く。
「巧くいくといいですね」
「ええ……祈るしかないのが、本当にもどかしい。セロベルの時を思い出します」