異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
恐慌状態、と云うか、その場に居るほとんどの人間が混乱しているみたいだった。今までも、ウロアはこういう勝負をしてきたのだろう。それが、まけた。
箔押しされた紙をとりあげた。ウロアの一切の財産を譲渡するという内容の書類だ。文面には不備はない。公的な効力のある文書なのかは判断しかねるが、借金の証書だってあんな感じだったから、これでいいのかもしれない。
テーブルへ戻す。ペンをとって、インクへ浸した。鉄筆みたいなやつだ。こっちの世界の筆記具は、あまりすすんでいない。
マオ、と書いた。こっちの言葉で書けていると信じたい。多分大丈夫。
「書いたよ」
ペン立てにペンを戻す。グエンくんは俯いて、顔を覆っていた。俺はワゴンへ近寄っていって、羊皮紙の山から数枚抜きとる。
やっぱりだ。不動産の権利書。あと、財産目録みたいなのもある。それに……。
紐で綴られた束を手にとった。思った通り、名簿だ。
なんの名簿かは解らない。でも、この名簿に載っているひと達もウロアの所有、ということだろう。
名簿やなんかを丸テーブルへ放り投げる。どうせあの丸テーブルも俺のものになったのだ。多少乱暴に扱ってもばちはあたらない。
「それ」エルンを見て、金のカップを示す。「片付けて。ちゃんと洗ってね」
エルンが戸惑ったふうに俺とウロアを見比べている。俺は羊皮紙の検分を続けた。名簿が多い。不動産も相当持っているみたいだ。
ラッツァク商会、の権利書まであった。俺は商人協会には登録してないし、能力証を提出できないから登録は絶対できない。ラッツァクの商会長にはなれないけれど、誰かに代行してもらえばいいのだ。
「ねえ、これの財務状況は?」
権利書をひらひらさせながら云う。誰からも反応はない。
俺は権利書を丸テーブルへ叩きつける。数人、過剰に反応したのは、ウロアの配下か。
いや、もと・配下だな。今は全部俺の所有。だよね?
椅子へ腰掛ける。
「別に云わなくてもいいけど」名簿を開いた。「全部俺のものになったってことは、この名簿のやつを生かすも殺すも俺の自由なんだよ。それは理解してくれないかな」
名簿に目を落とす。順番は、多分あいうえお順というかABC順というか。同じ音の頭文字で並んでるから。最初がら行だ。こっちの世界ではら行が一番最初に来るんだなあ。しかも、名字じゃなく名前の頭文字。リューイック、もあった。
ウロアが呻いた。エルンが戸惑い顔でやってきて、俺へ云う。「あの……商会長の治療を……」
「ん?まだ具合悪いの?じゃあ適当にやっておいて」
仰ぐ。「でも、逃がしたりしないでね。訊きたいことも、やってもらいたいこともあるから」
エルンは答えない。
扉が開いて、鎧姿の女性が走り込んできた。「大変です!また、あいつらが……」
あいつら?