異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ユラちゃんが羊皮紙の束をペちぺち叩いた。
「これはなにかの売り買いの記録よね。もし品ものが残っているなら、それも売るの?……それにしても、どうやったらこんなに大金の取引ばかりできるのかしら」
「ひとを売り買いしていたのよ」
ジーナちゃんが淡々と返すと、ユラちゃんはぎょっとした。目がまんまるだ。「ひとを?」
「そう」
俺は人身売買の取引記録をめくってみる。品名は書いておらず、「量」と金額、持ちこんだ者の名前、取引日時がある。
ジーナちゃんが白魚のような指を紙面へ這わせた。「あら……マイファレット卿の名があるわ」
目を落とすと、その通りだった。
マイファレット領でひとさらいが相次いでいた、というのは、領主一家の仕業だったってことだ。この十年くらいでどんどん羽振りがよくなったのもその所為なのか。なんというかなあ。単純に、ばかばかしいとしか。
ミューくんがちょっと俯いている。と、ジーナちゃんがその手を握り、低声で云った。
「ミューは悪くないのだから、気を落とさないで」
「……ジーナ」
「エンバーダートはこんなことをしなくったって稼いでいるわ。もとファバーシウス家でありながら、こんな愚行に手を染めて、はずかしいと思わないのかしら」
「もとファバーシウス?」
ユラちゃんがぴょんとした。「もとファバーシウスって、エンバーダート家のことでしょ」
「うちもそうだけれど、マイファレットとグークマもよ」
ジーナちゃんがそう答えると、ユラちゃんは口をぽかんと開けた。
「マオ……」
振り返る。グエンくんがまっさおになっていた。リューもだ。
俺は小首を傾げる。「なに?」
「しょぶんって……賭場もなくなるの」
「多分」
ぜんぶ売っ払っちゃうつもりだから、所持している建物での開催は不可能になる。それに、俺には賭場をやれる程の才覚がない。ていうか、単純に面倒。
それに、イメージが悪すぎる。
関係者(ハツァル達だ)が捕まっただけで客足が遠のくのに、胴元が捕まった上に人身売買の温床になっていたのである。誰も来やしまい。その情況で、場所を貸してくれるひともないだろう。
正直、続けても儲けられないだろうし、娼妓・従業員の人件費がばかにならないだろうことを考えると、畳むのが一番だと思う。ほかにつかいたいことがあるから、無駄なお金をかけられないし。
「そんなの、困る」
グエンくんは声を裏返らせた。
「妹が……兄さんだけの稼ぎじゃ……」
「マオ」リューが必死な調子で云った。「僕らはどうなる?僕らだって命がかかってるんだ」
「ちょっと、待って」
ふたりを遮った。「話は聴くから、落ち着いて喋って」