異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
五人が朝食を終え、食器を片付けた。「昨夜はお疲れさまです」
「こっちこそ、おいしいものを沢山、ありがとうね」
「おかげではかどったよ」
「別の仕事の時も、これくらいおいしいもの食べたいよな」
「また食べに来るよ」
「俺も」
持ってきた帳簿がなくなっていないか、などを確認した(ちゃんと全部俺が持っていた)。五人は本部へ戻るらしいので、お菓子の包みを渡す。還元過多の後処理で大変なのに、更に仕事を増やしてしまったのだ。お菓子くらい渡さないと、申し訳が立たない。
「これはライティエさん達に」
「助かるよ-。ライティエって、おなかすいてるととんでもないからね」
「なあ」
「それで、こっちはつぃーくくんのです」
パウンドケーキだ。片方は甘く煮たレモンのスライスをのせて焼いたあと、甘ーいレモンのシロップを染みこませた。もう片方は、マンゴーのジャムを混ぜ込んで焼いたものの表面に、バタークリームを塗ってある。
収納空間持ちだというレミアンさんに押しつける。「絶対つぃーくくんに渡して下さいね。ツィークくんだけ食べていいからねって」
「ああ……」
レミアンさんは何故か狼狽えた様子でパウンドケーキの包みをうけとり、収納した。ルネくんが首を傾げる。「マオちゃん、ツィークのこと……」
「こら、ルネ」ジャヤさんがルネくんの頭を軽くはたいた。「野暮な男は嫌われるよ」
「痛いよジャヤ」
「マオさん、心配しなくてもちゃーんとツィークには届けるから。伝言あるならそれも預かるよ?」
伝言かあ。ツィークくん、無理してそうだし、うーんと。
「ちゃんと食べてちゃんとやすんでねって、云っておいて下さい」
ジャヤさんはにこっとして、解った、といった。
五人を表の通りで見送り、屋内へ戻ろうとすると、背後から車輪がごろごろまわる音が響いた。暫く馬車を見ていないな、と思って振り返る。
「マオさん」
トゥレトゥススのひく馬車が停まり、ミューくんが降りてきた。「ミューくん」
ミューくんは手を差し伸べ、その手を掴んでジーナちゃんも降りてくる。
「マオ、元気そうね」
「ジーナちゃん。わあ」
ジーナちゃんは、いつにも増してお嬢さまっぽい格好だった。柔らかそうな菜の花色のドレスは、スクエアネックで胸下切り返し、袖はたっぷりしている。スカート部分の膨らみは乏しい。襟許に白い糸でぬいとりがしてあり、真珠が縫い付けられていた。うっすらピンク色の肩掛けは総レースだ。髪は綺麗に梳かして、トパーズかシトリンの飾りをつけてある。ドレスの丈はひきずるほどなので、くつは見えなかった。
「可愛いね」
思わず誉めると、ジーナちゃんは含羞んだみたいに目を伏せた。