異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ミューくんはかつてないくらい家族や親にもの申したそう。ジーナちゃんはミューくんの隣で黙っていた。
ファバーシウス家はマイファレット邸に逗留していたし、ミューくんはその隣の廟に居た。どちらも警邏隊の捜査がはいって、しかも廟にはマイファレット夫人、アエッラ、マイファレット家の次男が移ってきた。ファバーシウス家はマイファレット邸を追い出されてしまったし、ミューくんは捕まっていないマイファレット夫人やアエッラと顔を合わせたくないので、廟を出た。
チェルノーラ夫人が、是非エンバーダート邸に、そちらが気にいらないのならチェルノーラ邸でも、と誘ってきたけれど、ミューくんは断った。ジーナと一緒に四月の雨亭へ行くと云い張ったのだ。
「勿論」ミューくんは一瞬首をすくめる。「彼女の母親は大喜びですよ」
「ああ……いいの?」
「ええ。今、彼女を放り出したら、愚か者どもの思惑通りになってしまう。彼女は捕まっていただけなんですよ。汚名がそそがれるまでは……」
「別に、話がまとまった訳ではないの」
ジーナちゃんはクッキーを食べつつ云う。「ミューのご両親の意向がありますから。どうも、本気でマイファレットにのりかえるつもりだったみたい」
「そっか」
「親戚でもなんでも、うちの親が俺と釣り合うと考えてる女の子のなかで、まともなのはジーナだけなんですよ。それなのに、アエッラみたいな、頭におがくずとなまごみでも詰まっているみたいな、あんな……」
ミューくんは怒りがよみがえったらしく、言葉を失った。ジーナちゃんがふふっと笑う。
「わたしがまともだなんて、あなたの奥さん候補って随分かわり者ばかり集められてるのね」
「ジーナ、君くらいまともな人間はめずらしい。それを理解したほうがいい。まともだから、かどわかされて君はこたえてるんだ。だからゆっくりしているんだよ」
「ミューがいれば平気だわ」
ジーナちゃんは当然のように、はっきりといいはなった。
「そういえば、グエンくんの妹さんは?それに、マイファレット家の次男が、凄く悪い状態だって聴いたけれど」
「ああ、ヴェーティヨン……アエッラの兄さんなら、病じゃありませんでした。中毒です」
「中毒?」
ミューくんはお茶をすすり、ジーナちゃんが云う。「ヴェーティヨンは、人攫いに関わるのを拒んだの。どころか、御上に届け出ようとしたらしいわ。それで毒を服まされて、殺されそうになったの。なんとか命は助かったけれど、動けず、喋れない状態になって……」
「家族に病人が居れば、癒し手と親しくなれる。そう判断したマイファレット卿が、ヴェーティヨンを生かしたんです。うちの親に恢復させては、毒を服ませてまた具合を悪くさせる、その繰り返しだったそうです」