異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
どうでもいいや。お昼の下拵え、ちゃんとしなきゃ。
手を洗い、下拵えを続けた。問題はお魚だ。そもそも、お魚がほとんど手にはいらない。手にはいっても川魚だ。沢蟹だったら文句なくおいしいだしがとれるんだけど、時期外れなのかこの辺りでは食べないのか、見かけない。やっぱり、ブロードでやろうか。ブロードと豆乳、白味噌を少しで、こくは出る。風味はかなり違うけれど、おでんらしきものはできるんじゃないかな。
って、具がないじゃん!大根はできるし、じゃがいも、里芋、蕪、ロールキャベツ、白菜、厚揚げ、ごぼう、人参、ブロッコリーはいける。とうもろこしとトマトも、還元されたものなら時期外れでもいけるみたいだし、ぎりいける。
でもてんぷらがない。お魚がないじゃないか。俺はあれが一番好きなんだよお。こんにゃくもないし、もうそんなのおでんじゃない!
お鍋に肉だねを巻いたキャベツを並べる。牛ストックを注いだ。かまどに火をいれる。「マオ、どうして機嫌悪いの?」
「え。悪くないよ」
「やっぱりあのいけ好かない前髪……あいつ、マオに特別にお菓子もらって、調子のってるっす」
「ああー」思わず声がもれた。「かつおぶしがあればなあ」
「かつおぶしが好きなのか」
サッディレくんとツァリアスさんが息をのんで抱き合い、壁際までさがった。俺は、え、と振り向く。
リッターくんだ。
リッターくんは、いつも通りに無表情で、しかし頭から血を流していた。額を伝い、左目を通って、顎まで垂れている。「り。りったーくん。な」
「かつおぶしなら、レフオーブルでつくっているぞ」
「なにやってんの?!血!ほら屈んで!死んじゃうよ!」
すっかり存在を忘れていた傷薬を出そうとすると、俺の悲鳴をききつけたらしいミューくんが走り込んできた。
「マオさっ……リッター?!」
「ああ、ミュー。昨日会わなかっただけなのに、もうずっと会っていなかったみたいだ。顔をよく見せてくれ」
「ばっかお前なに、ああもう水花!」
ミューくんが喚くと、リッターくんが頷いた。「治った。痛くない」
「この、ばか、ぐず、まぬけの木偶の坊。なに平然としてるんだよ。ほら外出て洗え!」
リッターくんはミューくんに腕を引っ張られ、中庭へ連れ出された。なんだかとても嬉しそうだ。
中庭からジーナちゃんの声がした。「リッター、あなた、それ以上ミューに近付いたら耳を削ぎ落とすわよ」
五分もせずに、血を洗い落としたリッターくんと、ミューくんジーナちゃんが中庭から顔を覗かせた。ミューくんが云う。「馬車にひかれそうになった子どもを助けたんですって、このまぬけのぐず」
「ミュー、あんまり云わないで」ジーナちゃんがリッターくんを睨んだ。「この子、あなたに罵られるのを喜んでる節があるわ」