異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
まかないを食べ終え、手を洗う。「じゃあ、みんな元気なんだ」
「ああ。半分は家族の許へ帰った。もう半分は、家族が見付かっていないか、天涯孤独だ」
「そっか……」
リッターくんは、けもみみさん達について、報告に来てくれたのだ。馬車事故にまきこまれてど忘れしていたそう。くわしくきいたら、ラシェジルが突然暴走して揚げパンの屋台に突っ込み、馬車も屋台も大破、というかなり酷い事故だった。そら、ショックで記憶も飛ぶ。
クッキー生地をつくりはじめた。リッターくんが隣に立って、じっとしている。指示待ちっぽいので、たまごの白身がはいったボウルとホイッパを出した。「あわだててくれる?」
「どうやるんだ」
「こんなかんじで、空気をふくませるんだよ」
かしゃかしゃと試しにやってみせると、リッターくんは頷いて俺の手からボウルを奪う。俺はにこっとして、クッキー生地づくりを再開した。リッターくんに頑張ってもらったら、マシュマロを沢山つくろう。ユラちゃんへのお土産。
「家族が居なくて、行き場のない者らは、そのまま我が家で雇うつもりだ。暫くは療養に努めてもらうが」
「リッターくん、ありがとうね。俺はそこまで考えてなかったから」
「いや。お前が彼らを救った」
端的な言葉がなんとなく面映ゆい。
できあがった生地を天板へ落とす。「借金をなくすって話だけど、これ終わったら商人協会へ行こうかなって」
「そうか」
「ちょっと、ややこしいことをしないといけなくてさ。借金をなかったことにするだけじゃなくて、余分に取り立ててたのを返すつもり」
リッターくんは手を停めて、小首を傾げる。ざっくりと、過払いのことを説明した。
「……お前の云うことはかわっている」
「それ、リエナさんにもいわれたよー」
「かわっているが、間違ってはいないと思う」
おお、いい子だあ。頑張って言葉さがしてる。偉いねえ。
頭を撫でてあげたいが、調理中なのでできない。だから、肩をくっつけて、頭を凭せかけた。「リッターくんいい子だねえ」
「ん」
「マオ!」お茶を淹れているサッディレくんが喚いた。「そいつとくっつかないで!」
クッキーを焼きながら、リッターくんが頑張ってくれたメレンゲでマシュマロをつくった。味見して、とマシュマロをリッターくんに食べさせる。ほっぺたがふくらんでいるのが可愛い。リッターくんって、多分ジーナちゃんやミューくんより歳下だよね?大きいけど、雰囲気が幼い。
「うまい」
「よかった。ユラちゃんと、耳持ちさん達へのお土産に、持って帰ってね。クッキーもすぐ焼けるから」
「ありがとう」
リッターくんは目を伏せた。