異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
な ん だ っ て ?!
リッターくんを見、木箱を見て、俺は木箱へ走り寄る。小さめで、底の浅い木箱だ。震える手で蓋を開ける。
かつおぶし。紛うかたなきかつおぶしだ。しかもお隣には分厚い昆布が鎮座坐している。
「にゃ-!すっごい!おいしそう!」
蓋を置いて、リッターくんのもとへ駆け戻る。ぴょんと飛び付いた。抱きとめられる。「リッターくんありがとおお!大好き!」
「ああ」
「約束通り佃煮つくってあげるからね!リッターくん沢山食べていいよ!あっでもあんまり食べると体に毒だからそれなりにね!」
「解った」
「解ったじゃないでしょ」
ジーナちゃんがリッターくんの横腹を殴った。グーで。「マオをお離しなさい」
「リッター、ジーナの云う通りになさいよ。ぐっさりいかれるわよ」
「あら、ユラ、わたしのことをよく解ってるみたいね」
「ああっ、なにしてるっすかあ!」
お隣から戻ってきたサッディレくんが、リッターくんをぺちぺちはたいた。
床に降りた。リッターくんはサッディレくんの追撃を両手で掴んで防ぐ。サッディレくんはじたばたするが、リッターくんが顔を近寄せたので停まった。「な、な、な、なんだよ」
「……おいしい匂いがする」
今朝、サッディレくんには、豚照り焼きとチーズスープだったっけ。
リッターくんは目が据わっていた。「たべたい」
サッディレくんが真っ赤になって、リッターくんの手を振り払い、アーレンセさんの許へと逃げていった。リッターくんは首を傾げる。
俺は手を洗い、お鍋を用意する。早速だしをとるのだ。お水を注いで、っと。
「リッターくん、まさかまた、朝ご飯食べ損ねたの?」
「ああ」
「もー、ちゃんと食べなきゃだめだって、あれだけ云ってるのに」
振り向いた。「ユラちゃん、お菓子分けてあげて」
「は?……仕方ないわね。従者がはらぺこだとわたしの面子に関わるわ。リッター、食べなさい」
ユラちゃんが厳かに、リッターくんへお菓子の包みをひとつ渡した。リッターくんは無言でうけとって、クッキーをぽりぽりかじる。「旨い」
「ちょっと、礼を云いなさいよ」
「ありがとうマオ」
「わたしにでしょ!?」
「主君が従者の衣食住に気を配るのは当然のことだ」
「あ、ん、た、ねえ!」
俺は昆布の表面を濡れ布巾で軽く拭いながら、ははっと笑った。昆布はお水から、だったよな。おじさんの旅館の厨房で、たまに手伝っていたけれど、だしはお料理の要だからと、くわしく教えてはもらえなかったのだ。
でも、昆布はお水からじっくり火を通して、だしをとっていた気がする。かつおぶしは、沸騰直前くらいにいれて、すぐに漉すんじゃなかったかな。
ん?
布巾を取り落とした。サキくんがはっとする。「マオさん?大丈夫ですか、顔色が……」
「鉋がない」
鉋がない=かつおぶしを削れない=かつおだしをとれない!!