異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
解らんので笑ってごまかした。丁度雨がやんだので、空を指差す。「やんだね」
「あらそうね。でもとっても寒いわ」
「君は毎年チェルノーラ領へ避寒に行ってるから、寒さには慣れないんだろう」
「そうなの?ジーナちゃん」
ジーナちゃんは肩をすくめた。「毎年じゃないわ。それにミューも来たことがあるでしょう?」
「たったの二度だ。しかも二回目は、なにがなんだか訳が解らないうちに帰ることになった。あれは誰の差し金だったんだろうな」
「さあ。グークマじゃないかしら」
「ああ……まあ、今となっちゃどうでもいいことか」ミューくんが溜め息を吐く。「すべてのものは、いつかは素に戻るのさ」
四月の雨亭へ戻ると、ルッタさんとレアディさんが来ていた。一週間ぶりの焼きたてパンの匂い!!たまらない。
パン、バター、牛乳を買い占めた。弟さんは別のお店へパンやバターを持っていったそう。還元過多からこっち、村を一歩も出られなくて、難儀したらしい。
ルッタさんからもパスタ類を買おうとする。が、ルッタさんは小さな声で云った。「あの、お代は、結構です」
「え、でも」
「お礼になんてならないかもしれないけれど、マオさんのおかげで、借金がなくなって、……それどころか、お金が返ってきて。だから、マオさんからはお金とれません」
ルッタさんはぺこぺこと頭を下げる。「ありがとうございます。助けてくれて」
「いや、いや。こっちも欲得尽くでやったことです。商売は別の話でしょ?だめですよ、そういうのは」
「でも……」
「じゃ、暫く割り引いて下さい。それでいいです」
ルッタさんは相当ひとがいい。俺に悪気があったかもしれないのに。
ルッタさんは微笑んでから、目を伏せる。
「余計に取り立ててた分だって。貝貨を沢山、もらったんです。お店が持てるくらい」
「え!よかったじゃないですか」
「わたし、ほかのことはよく解らないし、麺を売るお店をやりたいなって。売り子を何人か雇って、製麺士に麺を打ってもらえば、いいかなって」
ちっちゃい麺の工場って感じかな?凄くいいと思う。生パスタおいしいし。
俺はにっこりする。
「素敵ですね」
「もしそうなっても、こちらにはわたしが売りに来ます。格安料金で」
うーん、それは断りづらいなあ。根が貧乏性だから、格安とか割引とか、心惹かれる。
ぐすっと、ルッタさんは洟をすすった。慌てた様子で背嚢をおろし、麺の包みをテーブルへひょいひょいと置いていく。「……今日は、これだけです。どうも」
「はい。じゃあ」
「今日は、本当に。結構です」
「そうですか……あ、ご飯、食べていきますよね?」
ルッタさんは頭を振った。「ちょっと、用事があって。失礼します」
そう云って、走って出て行ってしまった。