異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ご飯を食べたら落ち着いたので、手を洗って調理に戻った。ミューくんも手を洗い、給仕にたつ。いれかわりでセロベルさんが戻ってきた。ツァリアスさんと席に着く。
「マオ」ジーナちゃんが手を洗って、新たにスープをつくりはじめた。「アエッラのことが気になるの?」
「あー、うん」
そろそろドライフルーツのヨーグルト和えがなくなりそうなので、別のデザートをつくらなければ。ぱっとつくれるものといったら、パンケーキくらいしか思い付かない。ドライフルーツを粗みじんにしてまぜこもうか。
ドライフルーツを切り刻んで、牛乳と一緒にボウルへいれていく。ちょっとでも漬けこんでおけば、焼いた時にやわらかくなってくれる筈。
「ジーナちゃんは、気にならない?」
ジーナちゃんは、根菜を切る自分の手許を見詰めている。切った根菜をお鍋へいれ、つぼにはいったラードをおたまで掬ってお鍋のなかへ落とし、そのままそのおたまでかきまぜる。じゅわじゅわといい音がして、おいしい香りが漂ってくる。
「気にならない訳ではないけれど……あの子には関わりたくないわ」
「ああ、それは俺もだよ。でも、彼女が人攫いや人身売買をしたんじゃないでしょ?」
「……アエッラの暮らしは、それで賄われていたわ」
「そうだね」
それは事実だ。マイファレット嬢は絹のドレスを着ていたし、贅沢な暮らしだったろう。父親が不正に稼いだお金でそれらは成り立っていた。
「でも、知らなかったんだよね。そのことを。彼女はさ」
ディファーズでは、女性の地位は低い、らしい。そして、親に逆らうことは親にはじをかかせることになる。その上マイファレット嬢は子どもだ。親が何をしていようが知ることもないし、知ったところで意見はできない。
ジーナちゃんは似通った立場だから、それは解っているのだろう。口を噤んで、根菜を炒めている。俺はドライフルーツを刻み終え、別のボウルに小麦粉と片栗粉、お塩、重曹、お砂糖をいれてかきまぜる。「勿論、だからゆるせとはいわないよ。ジーナちゃんやミューくんが彼女を嫌ったり避けたりするのは自由だからね」
「……そう?」
「うん。感情だからさ、それは。でも俺は、犯罪計画を立てて実行した人間が一番悪いと思う。次に悪いのは、知っていてとめられる立場だったのにしなかったひと、ね。ただ、気付いてなかった周囲のひとまで同罪だなんて云いだしたら、被害者にも落ち度があったなんて理屈も通るよね?ひとりで出歩いていたからさらわれたんだ、とか。それっておかしいと思う」
どうあっても、加害者がいなけりゃ被害はないのだ。
ジーナちゃんがこちらを向いた。
「アエッラは、知らなかったと思うわ。いやな子だけれど、知っていてあんな態度をとれる程愚かじゃない。……マオ、ストックを頂戴」