異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
セロベルさんとアーレンセさんも、手を洗って参戦した。セロベルさんがお茶をいれて持っていく。アーレンセさんは、汚れた食器を持って戻ったサッディレくんとこそこそ話して、楽しそうだ。
「マオ」
セロベルさんがアーチの下で云う。「呼ばれてんぞ。シアイルのオジョウサマに」
ユラちゃんかな。俺は返事をして手を洗い、ツァリアスさんに後を任せて食堂へ行く。
やっぱりユラちゃんだ。左右に年嵩の侍女を座らせている。右の侍女の更に右には、ウェーブした灰色の髪を腰の辺りまで伸ばした、中学生か高校生くらいの女の子が居た。その右隣に三十代くらいの女性が座っていて、服装からして侍女だろうが、レフオーブル家の侍女ではない。服が違うから。
一応、ティーポットを持って行った。「おかわりはいかがですか?」
「戴くわ」ユラちゃんは椅子の上でふんぞりかえっている。「マオ、今日のクッキーはとてもおいしいわ。買って帰るから沢山焼きなさい」
「うん」
笑いまじりにお茶を注ぐ。ユラちゃんはクッキーをごりごり嚙み砕いて、お茶を飲んだ。「このお茶もいいわねえ。あらカイザサイグ嬢、遠慮しないのよ。どんどん食べなさい」
「はあ」
「わたしのおごりじゃすすまないかしら」
ユラちゃんが圧をかけると、灰色髪の女の子は会釈して、クッキーをつまんだ。カイザサイグ嬢……リッターくんの許嫁さんかあ。可愛い子だなあ。
カイザサイグ嬢は、丸っこい鼻をして、そばかすが頬骨の辺りにぱっと散っていて、色白だ。顔そのものも丸っこくて、ちょっとふっくらしているので、さっき思い出していた大福餅が頭を過る。頭の左右、こめかみの高さに、夾竹桃を模したらしい布製の髪飾りをつけていた。
カイザサイグ嬢は、クッキーにバタークリームをつけ、こりこりとかじる。ユラちゃんがくいと顎を上げた。
「マオ、紹介しておくわ。この子はサイディ・カイザサイグ。カイザサイグ伯爵家の次女で、堅固な魂持ちよ。カイザサイグ家はお金持ちなの。ひいきにしてもらいなさいよ」
カイザサイグ嬢はクッキーをかじりながら、ちらっとこちらを見た。俺は微笑んでお辞儀する。「お運び戴いてありがとうございます。どうぞごひいきに」
カイザサイグ嬢は面食らったようで、しゃっくりをして、侍女のさしだしたマグを慌ててとり、お茶を飲む。
ユラちゃんへ顔を向けた。
「ありがと、お客さん増やしてくれて」
「ふふん。気にしなくていいのよ」
ユラちゃんは胸を張る。
実際、ありがたいことだ。お客さんは幾ら居たって嬉しいし、それがお金持ちなら尚更嬉しい。