異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
「君ら、知らなかったのか?一次で通ったシアイル人は居ないよ」
「あら……じゃあ、一次で落ちたって話が、どこかで一次で通ったって話に変わってしまったのね。まあ、災難ですこと。見も知らないひとに間違ってお祝いを云われたりしたら、居たたまれないでしょうに」
ジーナちゃんは本当に気の毒そうにそう云い、サキくんは驚いた顔で頷いていた。
おかわりのお皿を持っていく。テーブルへ置くと、ユラちゃんはクッキーにたっぷりバタークリームをつけてかじった。
「このクリーム、好きだわ」
よくよく考えれば、イタリアンメレンゲをゼラチンでかためたらマシュマロになるから、ユラちゃんがバタークリーム好きなのは当然かもしれない。俺は、じゃあおまけ、と、ユラちゃんのお皿にマシュマロクッキーをみっつのせた。ユラちゃんはにんまりする。
「気が利くじゃない。誉めてあげる」
「どうも。お嬢さまもいかがですか?」
笑みを向けると、カイザサイグ嬢は目をぱちぱちさせた。ユラちゃんが云う。「カイザサイグ嬢、もらっておいたほうがいいわよ。おいしいから」
「あ……ですの。でしたら、戴くわ」
「かしこまりました」
カイザサイグ嬢のお皿にもマシュマロクッキーをのせる。カイザサイグ嬢はちょっと不審そうに俺を見て、マシュマロクッキーをひっくり返したり転がしたりする。「……あの?」
「はい。お茶のおかわりですか?」
カイザサイグ嬢は辟易したみたいで、ユラちゃんへ目を移した。
「この者は、どうしてリッターさまのお名前を軽々しく口に出したのですか?ユラさまに対しても、なれなれしいです」
「あらあら、可愛らしいところがあるじゃないサイディ。いいわね、嫉妬は相手のある者の特権だもの」
ユラちゃんは侍女のさしだした手巾で指先を拭い、優雅にお茶を飲んだ。「でも、あなたが思ってるような面白いことは起こってないわよ。リッターみたいな木材か金属でできてるような人間が、幾ら裾野に来たからって遊んだりしないわ。伸ばすような羽もないやつよ」
「でも、髪の短い男は」
「リッターだって短いじゃないの。マオはレントで一番の料理人よ。侮辱はしないほうがあなたの為だわ。それに、リッターへの侮辱にもなるわよ」
ユラちゃんが低めた声で釘を刺すと、カイザサイグ嬢はひくっとしゃっくりをして、小さく頷いた。
ユラちゃんがにっこりし、くいと顎を上げる。
「わたしはうかるだろうから、休みには降りてきてここで食事をとってあげる。カイザサイグ嬢は来年も試験でしょ?あなた、運がいいわよ。こんなにおいしいものを出す店を知ることができて。来年はここでおいしいものを食べて、試験ではちゃんと実力を出しなさい」
カイザサイグ嬢は口をへの字にしてしまった。