異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
「あ」
四月の雨亭が見えてくると、ミューくんがジーナちゃんの腕をぎゅっと掴んだ。「どうしているんだよあいつ」
目を遣ると、リッターくんが立っている。俺達に気付いて、風を切って歩いてきた。
立ち止まり、片手をあげた。「リッターくん、おはよー」
「おはよう」リッターくんは一呼吸する。「昨日、ユス商会へ行ったか?」
「うん?うん、行ったよ」
リッターくんは無表情のまま溜め息を吐く。「そうか」
ジーナちゃんがミューくんを引っ張って歩き出した。
「お祈りがあるので、失礼……」
「あ、待って、ミュー」
サキくんが笑顔で停める。ミューくんもジーナちゃんも足を停め、振り向いた。なあに、とミューくんが云うと、サキくんは例の、どう見てもプロポーズ用のダイアモンドの指環をとりだし、ミューくんの指にはめる。左手の薬指に。「君にとても似合いそうだったからさ。どうぞ」
「ああ、ありがとう。じゃあ、君にはこれやるよ」
ミューくんがローブのポケットにつっこんだ包みから、オブシディアンから彫りだした指環をとりだして、サキくんの指にはめた。サキくんはにっこり、ありがとう、とお礼を云っていた。装飾品はつけない主義じゃなかったの??
そういう、アクセサリのやりとりは、友達間では普通のことのようで、ジーナちゃんはサキくんに対してなにも云わず、ミューくんと腕を組んで門を潜っていく。サキくんはにこにことふたりを見送っていた。
我に返る。リッターくんへ目を戻した。
「リッターくん、どうして俺がユス商会へ行ったって知ってるの?」
「連絡があった。ユス商会に来た娼妓らしい者が、レフオーブル家と知り合いだと騙ったと」
「……あー」
そうか、そうなるよな。警邏隊も呼ばれちゃったし、そこからレフオーブル家へ話がいって、リッターくんまで届いたのだろう。リッターくんに迷惑をかけたのかもしれない。
「ごめん、俺説明が下手で。先に、四月の雨亭のことをちゃんと伝えたらよかったんだけど」
「いや、お前の咎ではない。レフオーブル家がきちんと話をつけていたのに、違えたのはあちらだ。約定を反故にするなぞ言語道断。厳重に抗議する」
かすかに渋い顔になっているリッターくんへ、慌てて頭を振る。「いいよいいよ、俺が紛らわしいのが悪いんだって」
「……お前の人相風体についてはしっかり伝えている。黒髪を短く整えた、耳飾りをつけていない男だと。それを騙りと断じて警邏隊を呼ぶ騒ぎにまでしたのはあちらだ」
あらら、俺の見た目についてはちゃんと伝えてあったのか。なのにあの反応ってことは、冗談と思われた、もしくは伝達ミスかな。