異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ルトラとフリッド、キョウスケが即座に席を立った。フリッドが収納空間から剣をとりだし、ルトラに渡す。「ルトラ、先に行っていてくれ」
「ああ。キョウスケ、行くぞ」
ルトラとキョウスケが店を出て行く。キャラコはまごついて、サンドウィッチをお皿へ戻し、手巾で手を拭きながら立ち上がる。
「ヨタキ嬢はここに」フリッドは収納空間からとりだしたローブを羽織りながら、にこやかに云った。「危ないところへ行ってはいけないよ。許嫁殿が頑張ってくれているのだから、君は怪我をしないで」
「あ、でも」
「キョウスケが心配なのは解るけれど、癒し手なら協会からすぐに来てくれる。大丈夫さ」
フリッドは杖を持って、外へと走っていった。
キャラコは瞬いて、すとんと腰を下ろす。そう……キョウスケは強いし、まちに魔物が襲撃してきても、傭兵が沢山居る。捕吏だって戦えるのだ。心配はない。ないが……。
いやな感じがする。
なんだかとてもいやな感じがする、のだ、それは、キャラコだけではない。食事に来ているひと達はみんなそわそわしているし、子どもは泣き喚いていた。お祈りしているひとも多い。短い髪で手の甲にいれずみをしている女性が叫んだ。「大きな魔だわ!誰も外へ出てはだめ」
大きな……魔?
魔物は魔にとりつかれていて、それを祇畏士が滅却して魔を消す。そう聴いた。祇畏士は何人も居る。祇畏士の協会があるみたいだが、傭兵と一緒になって狩りに行っていて、垣根はないし、助けてくれないなんてことはない。だから、大丈夫、の筈だけれど。
キャラコはしかし、いつなにがあってもいいように、収納空間から必要なものをとりだした。体力に上方修正がかかるという触れ込みのネックレスとアンクレットだ。効果は極くわずかだが、ないよりはあるほうが絶対にいい。
それらを身につけ、魔力を補う丸薬の数を確認する。高いしとてつもなくまずい薬だ。でも、魔法をつかいすぎて頭痛がしてきても、服めばたちまち頭がはっきりする。数は9。充分ある。
間近で花火が破裂したみたいだった。それくらい大きな音がしたのだ。建物がびりびりと震える。外から、いくつも、叫び声が。
キャラコは収納空間を閉じて、浅い呼吸で立ち上がり、出入り口へ向かう。「お嬢さん、外へ出ちゃだめ」
振り向いた。その場に居るひと達は皆怯えていた。とても。
キャラコは笑みを浮かべる。
「大丈夫」
そう云って、キャラコは外へ走った。
外へ出てまず目に飛び込んできたのは、炎と煙だ。
建物が壊れていて、火の手が上がっている。消火しようとするひとは居ない。石畳の上に、両手足を投げ出して倒れているひとが沢山。得物をかまえた傭兵達が取り囲む、軽トラックくらいある、鱗のある大きな生きもの。
竜や、とキャラコは目を瞠る。きらきらした鱗に、鏡みたいに光る目、首許にあるふわふわした羽毛、鳥みたいな羽、蛇みたいなしっぽ、鶏みたいな脚。不気味に沢山並んだ歯。
「いいか、一斉に落珞を」
号令をかけようとした傭兵が、しっぽのひとふりで吹っ飛ばされた。竜はそちらを見もしない。近場の建物の壁に叩きつけられ、どさっと地面に転がった傭兵へ、キャラコは駈け寄る。屈み込んで恢復魔法をかけた。「……ヨタキ嬢」
見知った顔だ。トータと云う、舞姫。傭兵等級は2で、いつも仲間四人をひきつれて魔物を討伐している。なんとなく耳になじむ名前で、覚えていた。
「ありがとう……君は逃げるんだ」
「でも」
「戦士の君には、なにもできない」トータは体を起こす。キャラコの恢復魔法では、全快させられなかった。トータの左腕はぶらぶらと揺れている。「まして、女だ。怪我をさせられない……みんな、もう少し輪をせばめるんだ!すぐに応援が来る……!」
トータは剣を拾い、走って行った。キャラコは寸の間かたまっていたが、せめて怪我人に応急処置を施そうと、倒れているひとに駈け寄った。魔力を補う薬はあるから、とにかく治療すればいい。こういう時、魔法は凄く頼もしい。怪我の状態がどうであれ、つかえばいいのだから。
倒れているひとへ恢復魔法をかける。ふたりは意識を取り戻したけれど、三人は何回かけても無反応だった。多分、死んでいるのだ。キャラコは脚を震わせ、しかし走りまわって治療にあたる。薬をふた粒服んだところで、目に見える範囲の怪我人は治療し終わった。大体、半分くらいが反応なしだ。キャラコは涙をこらえて手を合わせる。
竜は、と見遣れば、膠着状態が続いている。竜は燃えさかる建物のすぐ傍にでんと座り込んで動かない。トータ達は、瓦礫を踏みながら、四人でそれを囲もうとしているが、竜は背後にまわりこまれるのを嫌って、後ろに立とうとするとしっぽで攻撃する。トータがそれで吹っ飛ばされたのを見ているからか、攻撃は大体すんでの所で躱して、同じ轍を踏む者はなかった。
トータは、竜を大人しくさせるか、動けなくさせるか、どちらかにしたいらしかった。少なくともキャラコには、殺そうとしているようには見えない。おそらくだが、竜の鱗はとてもかたいのだろう。トータ達は剣を持っている者ばかりで、それでは歯が立たない。だから、石礫を降らせる落珞をつかおうとしているのだ。殴ればいいから……。
竜は、突然、前肢で傭兵ふたりを薙ぎはらった。追いかけて追撃をする様子はないから、近付きすぎていて気に触ったのかもしれない。
キャラコは近場まで転がってきたひとりにすぐさま恢復魔法をかける。しかし、無駄だった。首がぐんにゃりと曲がってしまっている。即死だろう。
「ヨタキ嬢」トータが仲間を目で追って、キャラコに気付いた。「まだ居たのか」
キャラコは答えない。もうひとりの傭兵に駈け寄って、恢復魔法をかける。さいわいにも、そちらには効いた。キャラコの魔力ではたいした恢復量は確保できないが、やらないよりはずっといい。
竜が鳴いた。例の、間近で花火が爆発したみたいな音だ。キャラコは耳を塞ぐ。目をぎゅっと閉じる。
空気の振動が収まってから、目を開けると、トータが地面に転がっていた。たっているのはもうひとりだけだ。編成が悪い。トータのいつものパーティではない。物理アタッカしかいないし、恢復魔法を誰も持っていない。
キャラコはトータに近付いていく。それは詰まり、竜に近付くことになる。こわかった。竜は感情の読めない目をしていて、蛇とふくろうを掛け合わせたみたいな顔だ。前肢は太く、鋭い鉤爪がきらきら光っている。かたそうな鱗は炎を反射して、油みたいにてらてら虹色に耀いていた。
「ヨタキ嬢」トータは両脚が捩れているのに、キャラコに云う。「にげろ」
キャラコは小さく頭を振った。がたがた震えて、それでもトータを治療しようと、脚を動かした。
「ヨタキ嬢!」
最後のひとりが叫んだ。キャラコは息をのむ。竜は、ひらひらしたローブやスカートに興味をひかれたようだ。キャラコをめがけ、手を振り下ろしてきた。
叩き潰されたら間違いなく死ぬ。そう思ったから、キャラコは飛び退った。真後ろに数m移動したキャラコに、竜は控えめに吠える。目をつけられた。ターゲットになった!
竜はキャラコと目を合わせている。自分が標的にされているとキャラコは確信し、竜の出方をうかがう。火でも吐くのか、それともお得意のしっぽ攻撃か、突進でもしてくるのか。
そのどれでもなかった。竜は瓦礫を拾い上げ、投げつけてきた。
キャラコは叫びながら、瓦礫を避けて飛び跳ねる。すべてを避けたと思ったのに、竜は次々瓦礫を放ってくる。フードが外れ、こめかみを瓦礫がかすった。恢復魔法をかける。瓦礫が落ちて割れ、破片が下から襲ってくる。「ヨタキ嬢……!」
トータが両腕だけで、這いずってキャラコのほうへと来ようとしている。キャラコを庇うつもりらしい。この段になっても、まだ。
「じっとしちょって」
キャラコはトータへぴしゃりと云って、竜を見据えた。「こんなやつ、なんでもねえ」
竜は言葉が解るのかもしれない。目をきらっとさせて、鳴いたから。
キャラコは耳を塞いだが、目は閉じなかった。じっと竜を見て目を離さない。さっきはこの大声で目を瞑ってしもうて、その間にトータさんがやられたけん、多分これは怯ませる為の……。
竜は鳴きながら、もうひとりの傭兵へ襲いかかった。ぐわっと伸び上がって、上段から前肢を振り下ろそうとする。傭兵は立ちすくんでいて、頭を庇いもしない。
キャラコは姿勢を低くして、矢のように飛び出した。竜はこわい。こわいが、戦うしかないのなら戦う。やるしかないならやる。
キャラコは自分でもよく解らない叫びを上げて、竜の腹に左拳を叩き込んだ。いやな感触がして激痛が走る。左腕の何ヶ所かの骨が折れたのだ。数歩後ろにさがってちらっと見ると、尺骨が手首の辺から飛び出していた。親指も関節が増えたみたいになっている。手の甲はずたずたに裂けていた。
血が滴る。「……水花」
痛みが和らいだ。しかし、完全には治らない。もう一度かけようとしたが、竜が躍りかかってきたので逃げるのに気をとられた。
「水花!」
転がって一撃を避けながら、左拳を治療する。「水花水花水花!」
壁際に追い込まれた。傭兵がトータを抱え起こしている。キャラコは喚く。「トータさん達は逃げて!」
「ヨタキ嬢!」
「邪魔じゃ!!」
起き上がって壁を蹴り、竜に組み付く。勿論投げ技なんて不可能なので、そのまま竜の背後に落ちた。襲いかかってきたしっぽを両腕で防ぐが、今度は右腕がべっきり折れる。ついでに上半身にも衝撃は伝わって、キャラコはごふっと血を吐いた。「水花……」
跳び上がる。収納空間からとりだした丸薬を服んだ。竜はキャラコを仰ぐ。水花をつかってまっすぐに戻った右腕で、その鏡のような目を殴った。
竜がいやいやをした。キャラコは弾き飛ばされ、瓦礫の山へ落ちる。「誰か!誰でもいいから来てくれ!ヨタキ嬢が!」
傭兵が叫んでいる。そうか、伝糸……。キャラコは口のなかで水花と繰り返し、よろよろと体を起こす。竜が短く何度も吠えた。強い衝撃があって、キャラコの体は宙を舞う。攻撃されたみたいだが、なにでやられたのかは解らなかった。
空中で体をひねり、キャラコは綺麗に着地して、無言で水花をつかいながら竜へ突進していった。斜めに落ちて行くみたいな視野のなかで、竜は抉られた左目を庇うように顔を少しだけ背けている。そうよな、目をやられたら痛いしいややわな。
キャラコは跳ね飛んで、無事なほうの目へ左足をつっこませた。竜の鱗はかたいが、目はそうでもない。それでもキャラコの左足には激痛が走ったし、脚をひきぬいて地面へ転がり落ちた後巧く立てなかった。左足の甲が折れている。足首も。
竜が前脚で右目を触った。身をよじって呻いている。キャラコは左足首をなんとかしようと恢復魔法をかけるが、効果は芳しくない。魔法というのはつかいての精神状態によって効果が大きくかわるのだ。キャラコは怯えているし、痛みとも戦っている。いい状態の時のような効果は期待できる訳がない。視野は相変わらず斜めだし、落ちていく。
竜が頭をぶんぶんと振りまわした。血(竜の血は赤い)の塊が落ちてきた、と思ったら、キャラコのスリップオンだった。さっき竜の眼窩に置き忘れてしまったようだ。
キャラコは笑い出した。自分でも制御できない、どうしようもないばか笑いだ。竜と戦っていることだって、よくよく考えればまともではない。
笑いがとまらないキャラコに、竜は顔を向ける。キャラコは笑いを高くする。竜の左目は、傷が半分塞がっていた。尋常じゃなくかたい鱗に、信じがたくはやい動き、それに再生能力?冗談じゃねえ。
キャラコは笑いながら泣いている。こわいし、怪我が塞がりきらなくて痛い。これがゲームだと云うのなら、今すぐこいつのパラメータを下方修正するべきだ。まちにふらふらやってきていい強さではない。それとも、難易度の高さが売りのゲームなのか。
伝糸持ちの傭兵が、無謀にも剣をかまえて走ってきた。「こっちだ、竜よ!」
「やめて!」キャラコは喚く。「わたしがなんとかする」
竜がはばたいた。ほんの少しだけ浮かび上がった、と思ったら、羽がきらきらと光り始める。これは……魔法?
魔物も魔法をつかえるのだということを忘れていた。キャラコは羽から閃光が放たれるのをしっかりと見る。避けきらんと思った。
光り輝くオレンジのビームは、キャラコへ向けて地面を抉りながら走ってくる。キャラコは、さがるか、横へ跳ぶか、跳び上がるか、考えて、どれもだめだと判断した。さがっても追ってくる。横に跳んでも跳び上がってもそうだ。羽の角度を少し変えればそれで事足りる。キャラコは黒焦げになるか、目の前の石畳のように切断されるだろう。
だからキャラコは竜へ向かって走った。
その動きは予想外だったのか、竜は一瞬反応が遅れ、キャラコがビームを跳び越す時間をくれた。キャラコは靴が脱げても走る。ストッキングがずたずただ。一足銀貨2枚もしたにい、もったいねえ。
ストッキングの値段を思い出したら、途端に怒りがわいた。キャラコは竜の腹に左拳を叩き込む。骨が折れたし皮膚が裂けたが、竜が怯んだ。幾ら再生能力があるといっても、ダメージすべてを恢復することはできないのだろう。キャラコは左手をひいて、右拳を繰り出す。竜が短く吠える。捩れた右腕をひいて、恢復した左拳を繰り出す。その繰り返しだ。
十回も殴ると、拳の再生が追いつかない。キャラコは飛び退り、一部の骨がむきだしになった右手で収納空間から薬をとりだす。とてつもなくまずい丸薬を三粒嚥み下して、両手に水花をかける。キャラコがつかえる恢復魔法はふたつだけだ。
竜は体をぐらつかせ、苦しそうに呼吸している。しかし、キャラコは気息奄々だ。分が悪い。
血を含んだローブを脱ぎ捨てた。チュニックもだ。顔を軽く拭ってから放り捨てる。上半身を軽く締めつける細身のドレスは、スカートが破けてスリットがはいり、おかげであしが自由に動く。まさか戦闘が始まると思っていないから、外に出る時のような動きやすい格好ではなかったのだ。
キャラコは軽く腰を落とし、竜を睨んだ。両手の痛みは随分ひいたが、ぐっと握りしめると腫れているのが解る。ついでに、左の中指から小指は巧く曲がらない。右の手首はいつもの倍に腫れ上がっている。
竜がしっぽを振った。キャラコのあしをひっかけようとするみたいに、石畳をはがしながら地面を撫でて。
キャラコは跳び上がってそれを避け、空中で一回半回転する。竜の左目は完全に癒えているが、右目はまだ血を滴らせていた。再生が追いつかないくらい沢山の攻撃を。それしかねえ。
両手を重ねて掌を竜へ向ける。「ひゃくらい」まともな発音もできなかったけれど、百雷は発動した。精神状態が重要ということは、痛かろうがこわかろうが意志が強ければなんとかなるということでもある。
雷は竜の右目にあたった。傷を攻撃され、竜は無茶苦茶に前肢をばたつかせる。魔法はもうつかわないようだ。傷の再生に魔力が必要なのかもしれない。
キャラコは落下する勢いのまま、竜の鼻面を両足で踏みつけた。反動で後ろへ跳び、回転して着地する。休むことなく竜へ向けて走り、右拳を腹へ叩き込む。何回も、何回も、何回も、腕がつかいものにならなくなるまで。
流石に千切れてしまったら戻せないかもしれないので、右肘が反対に曲がった時に一旦退避した。鶏の手羽先みたいやなあと考えながら恢復魔法をかける。痛みはもうよく解らない。痛いけれど、痛いと感じたら動けなくなるから考えない。魔力を補う薬の残りを全部服んだ。両手をなんとか治療する。温存しておいた左手の状態はだいぶいい。
竜は上体を丸め、前肢で腹部をおさえている。よく見ると可愛い顔をしていた。まあ殺すんやけど。
攻撃に費やす魔力は残っていない。キャラコはできる限り両手の状態をよくして、竜に正対する。体力はぎりぎりだ。どこを狙うのが正しいのか。目は、届くか解らない。前肢で払われたら痛い。腹部は?背後にまわるか?
「キャラコさん!」
声に、顔を向ける。
キョウスケだ。100mは離れたところに居ても、解る。あちらも戦闘があったらしく、血にまみれていた。その後ろに、ルトラやフリッド、ほかの傭兵達がいて、みんなで走ってきて。
竜が羽ばたく。
「来んで!」キャラコは叫ぶ。「魔法!」
考えているひまはない。竜の羽が光り始める。キャラコは走って、跳び上がる。目を狙うしかない。あの魔法はキャラコを追ってきた。目視が必要な筈。でも濫発しないということは、コストが大きいのだ。両目が効かない状態で闇雲に撃つとは思えない。
竜が前肢を振り上げ、虫を追い払うみたいにキャラコを叩こうとした。空中で姿勢をかえられても位置は大きくかわらない。重力には勝てないのだ。キャラコはせめてダメージを軽減しようと、両手で頭を庇う。気を失ったらお仕舞だから。
がきんと硬質な音がして、前肢が弾かれた。「キャラコさん、俺を頼ってよ」
山刀をかまえたキョウスケだ。あの距離をどうやって、と思ったが、そうだ。キョウスケには瞬間移動があった。こういうつかいかたもできるのか。
「ありがと」
キョウスケはにこっとして、キャラコのせなかを蹴った。
勢いのついたキャラコの体は竜へ向かって落ちる。キャラコはもう一度礼を云って、左拳で竜の左目を思いきり殴る。肉片と血が飛び散った。幾らかはキャラコのものだ。左手はぐちゃぐちゃになったけれど、ダメージは与えられた。竜は魔法の発動を停める。やはり、目視で目標を定めてから撃つものらしい。
受け身を取り損ねて地面を水切りのように転がった。痛い。反転して起き上がり、恢復魔法をかけながら走る。キョウスケ云う。「前肢を落とすよ」
暢気な調子にキャラコは笑う。両手を完全に恢復するのは無理と判断して、キャラコは跳ねとび、竜の顎を蹴り上げた。キョウスケが山刀で竜の前肢を片方切り落とす。
「食べるから、キャラコさんは離れていてもらえる?」
キャラコは返事もせずに逃げる。キョウスケがにっこりしたのが見えた。
キョウスケは前肢を切り落とした、その傷口へ手をおしあてる。竜は反対の前肢でキョウスケを追い払おうとしたが、みるみる動きが鈍る。ひろげられていた羽がだらりと下がり、頭が低く、低くなって……。
キョウスケが飛び退いた。竜が倒れる。キョウスケがキャラコへとかけてくるのが見えた。キャラコは浅い息で、片膝をついている。今にも失神しそうだ。「キャラコさん、掴まって」
キョウスケの手を掴んだ。「ごめん」
「いいよ。キャラコさんは頑張ったじゃない」
「ヨタキ嬢!」
恢復してもらったトータが叫んでいる。「キョウスケ、ヨタキ嬢の治療を」
声が途切れた。
キャラコは気を失った。