異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
泊まりのお客さんは居ないので、少ない量の食器をツァリアスさんとふたりで洗う。ヤーヌさんも、黒い制服の袖をまくり上げ、わたくしも手伝いますわっ、と参加してくれた。ゆっくりとだが、一枚々々丁寧に洗ってくれる。うっかりと云うよりおっとりしているなあ、このひと。
片付けが済んでも、なんだか落ち着かない。クッキーをどんどん焼いた。そうだ、昨日菓子パン食べたいなと思ってたし、つくってみようか。
グロッシェさんが管理してくれているから、元種は充分ある。ものは試しだ、やってみよう。
元種・小麦粉・片栗粉・バター・お砂糖・乳清をまぜ、よくこねる。昔、ヨーグルトをパン生地にまぜると焼き上がりがやわらかくなると、料理番組で見た気がする。ヨーグルトサラダをつくるときに余る乳清を、ヨーグルトの代わりにいれてみた。
ゆるめの生地をしっかりこねて丸めたら、ツァリアスさんが風魔法でさましてくれたオーブンへいれ、発酵を促す。倍にふくらんだら、とりだしてもう一度、調理台でよくこねる。叩きつけたり、体重をのせてぐいぐい押したり。丸めて再度発酵。
発酵中に、中身の用意だ。小豆は二度ゆでこぼす。ゆがいた汁はめちゃくちゃえぐいんだけど、ゼラチンか寒天でかためると、コーヒーゼリーみたいな味になる。俺は本物のコーヒーゼリーより小豆のあくでつくったののほうが好き。シロップとやわらかめのホイップクリームたっぷりかけてくうの。
小豆が指で潰せるくらいになったら、お砂糖とお塩をいれてまぜながら水分を飛ばす。結構かため。そのほうが扱いやすいから。いい感じになったらバットに開けてさます。たい焼きはゆでこぼさないタイプのあんが好きだけど、あんパンのはゆでこぼしてあるのがいいな。好みの問題だけどさ。
カスタードクリームはつくりおきがあるし……クッキー生地も沢山あるから、メロンパンもできる。ジャムもあるからジャムパンもできるぞ。
あ、クロワッサン食べたい。……折りパイ生地流用するか。
発酵がすんだ生地をとりだし、ガスを抜く。ツァリアスさんがオーブンに薪をいれて火をつけ、お鍋をセットして扉を閉じる。優秀な助手さんである。
生地を切る。カードがないから包丁でやった。巧くいくかなあ。
麺棒で軽くのばし、小さなスパテラで粒あんを掬ってパン生地へおしつけ、くるくるっとやって包んだ。よし、巧くいった。素人だから、中身を欲張らないのがこつだ。俺はあんパンを食いたいのであって、粒あんを食べたいならそのまま口につっこむわ、と考えていれば失敗しない。
調理台にペちゃんと軽く押しつけて平たくし、天板へ置く。けしの実をつけて、後はオーブンへいれるだけ。同じ要領でカスタードクリームやジャムを包み、天板へ並べていった。クリームパンには切れ目をいれない派。