異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ヤーヌさんを見付けると、ユラちゃんは反っくり返った。「サーパルティルク夫人、わたしうかったわ!!」
「まあ、ようございました」
ユラちゃんはヤーヌさんに対してぺらぺらと喋っている。試験官に誉められたこと、貴族学校で一緒だったいけ好かないやつに羨ましそうに見られたこと、など。その間に、くすくすしながらミューくんが俺の傍に来て、そっと手をとる。恢復魔法をかけてくれた。かすかに残っていた火傷の痛みがひいていく。低声で、ありがとう、と云うと、ミューくんはにっこりした。「こちらこそ。なんだかいい香りがしてますね?」
「あ、オーブン大丈夫かな。ご飯準備してくるね」
いいおいて、厨房へ走る。ヤーヌさんはおっとりと、さすがですわユラさま、とユラちゃんを褒め称えていた。
厨房へ戻ると、ツァリアスさんがオーブンから焼き上がったパンをとりだしているところだった。「マオさん、これ凄くおいしそうですよ。いい香り」
「よかったー、巧くいきましたね」
手を洗った。ツァリアスさんはクーラへメロンパンをのせる。次にとりだした天板には、あんパンがのっていた。
「これも、なんともいえないいい香りですね。おいしそう」
「味見してみてください。多分おいしいと思います」
「いいんですかっ?」
「まかない食べ放題ですから」
ツァリアスさんは嬉しそうににっこりした。目が糸みたいになるのが可愛い。
お膳を用意し、テーブルへ置く。五人とも気疲れしたろうし、沢山食べてもらいたい。おいしいもの食べるとリラックスできるもん。
ユラちゃんが駈け込んできた。「いい匂いがするわ!お菓子でしょ?」
えーと、お菓子なのかな?パンなんだけど、おやつに食べるし、お菓子?
ユラちゃんは目をきらっとさせた。クーラにのったメロンパンをロックオンしている。クロワッサンの天板をオーブンへいれたツァリアスさんが、昨日編んでいたかごに、少し冷めたメロンパンを盛った。ユラちゃんがとことこっと近寄る。
「マオ、これは幾ら?」
「えーっと」原価がこれくらいで、だから……。「四種類ひとつずつで、銀貨1枚だよ」
「買うわ!」
ユラちゃんが銀貨をテーブルへ置いた。3枚だ。ツァリアスさんが、紙に包んだ菓子パンをユラちゃんへ渡す。ユラちゃんは四つを両腕で抱え、にこにこしてメロンパンにかぶりついた。
「ユラちゃん、ご飯もあるよ」
「マオ、あんたレフオーブル家の厨房で働く気はない?」
ユラちゃんが口のまわりにクッキーくずを沢山つけた状態で云う。「それがいやならこのお菓子のつくりかたを教えなさいよ。レフオーブル領へ戻ってからも食べたいわ!」
ユラちゃんはぴょんぴょん跳ねながら、次はジャムパンにかじりついた。