異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ロヴィオダーリ家の馬車の扉が閉まる。ユラちゃんがこちらを向いた。
「……そういう訳だから。……色々迷惑かけたわね。ありがと、マオ」
「ううん。ユラちゃん、来年まで元気でね」
「あんたもね。お菓子づくりの腕を鈍らせるんじゃないわよ。カイザサイグ嬢にまで売り込んだのに、あんたが怠けてたら、わたしがはじをかくんだからね」
頷く。ユラちゃんは一瞬にこっとした。
それから、ミューくんを見る。
「ミュー、ジーナも云ってたけど、わたしの態度は不躾だったわ。ごめんなさい。それと、ありがとう。あんたの恢復魔法には随分助けられたわ」
「ああ、どうも」ミューくんは戸惑い顔から、徐々に笑顔になる。「こちらこそ、君の魔法には助けられたよ。凄い威力だからね」
ユラちゃんはにやっとする。
「来年までにもっと腕を磨いてくるわ。その時は勝負してもらおうかしら」
「レフオーブル嬢、ふざけないで」
ジーナちゃんが顔をしかめる。「ミューに怪我をさせたりしようものなら、わたし」
「冗談でしょ。解りなさいよね」
ユラちゃんとジーナちゃんは、暫し睨み合う。そして、同時に表情をゆるめた。
「……あなたらしい。ひとの気持ちを無視して、つまらない冗談を云わないで頂戴」
「あんたらしく辛辣ねエンバーダート嬢。……でも、あんたらしいってのはいいことよね。ディファーズ女らしくはないもの。その調子で、ミューに群がる女どもを蹴散らしてやりなさいよ」
ユラちゃんからの思わぬ激励に、ジーナちゃんは目を瞠る。それからくすくすした。
「いい教えをもらったわ。ありがとうユラ……ミューをけなしたことは、謝ったからゆるしてあげる」
「どうもありがとう、神聖公国の奥床しいお嬢さん」
ユラちゃんが大袈裟にお辞儀する。ジーナちゃんが尚更くすくすした。
ユラちゃんは、サキくんへ向く。
「サキ、あんたとリオのことも、イナカモノって云って悪かったわ」
「ううん、シアイルみたいに文化が成熟している国のひとから見れば、僕らは田舎者さ。云われたって頷くしかないよ」
「……あんたはイナカモノかもしれないけど、優しくていいやつだわ。二年目は同じ科になるだろうから、宜しくね」
ユラちゃんがそう云うと、サキくんは微笑んで軽く頷いた。
ユラちゃんはふっと息を吐く。「そうね。……ここの宿を悪く云ってごめんなさいって、ご亭主に伝えておいてくれる?マオ」
「うん」
「……もうないわよね。云っておかなくちゃいけないこと。……それじゃあ、わたしも邸へ戻るわ。多分夜までにはレントを出る。つまり、半年以上会えない訳ね、あんた達とは」
ユラちゃんは仏頂面になった。それから軽くお辞儀して、くるっと背を向ける。
「行くわよサーパルティルク夫人!」
「はい、ユラさま」
ユラちゃんが馬車へ乗り込み、ヤーヌさんが手巾をとりだしながらそれに続いた。馬車の扉が閉まり、からころと車輪がまわりだす。レフオーブル家の馬車と、ロヴィオダーリ家の馬車は、ゆっくり走って行った。