【本編20万字完結】カストラート 〜傾国の歌劇(オペラ)〜【幕間更新あり】
自分の喉から解き放たれた、どこまでも澄み切ったソプラノの余韻が、斜陽の差し込む部屋の中に優しく溶けていく。
その神聖な響きを全身で聴いた瞬間――僕の心を冷たく縛り付けていた、父上のあの忌まわしい呪詛は、ガラス細工のように儚く粉砕され、光の塵となって霧散していった。
化け物と呼ばれようとも、不完全な紛い物と罵られようとも、もう構わない。
この声が、この魂のメロディが、僕の大切な人たちを絶望の淵から救い、現にこの世界を大きく動かしたのだ。
それこそが、何者にも塗り替えられない僕の真実だ。
「……ありがとう、ミハイル。おかげで、ようやく思い出せたよ」
僕は一歩前に進み、自分の青白く痩せ細った両手をじっと見つめた。
2ヶ月間、泥のように深く昏い底で眠っていた僕の瞳には、過去の絶望をすべて焼き切るような、かつてないほど鋭く気高き闘志の光が宿っている。
「僕には、まだやらなきゃいけないことが、たくさん残っているんだ――」
奪われたものを取り戻し、大切な居場所を守り抜く。
僕の真の戦いは、ここから始まるのだ。