【本編20万字完結】カストラート 〜傾国の歌劇(オペラ)〜【幕間更新あり】
国政の頂点に君臨し、実質的な支配者として国家という名の巨大なオーケストラのタクトを振り始めてから、早いもので十数年という年月が流れていた。
僕の年齢は、すでに三十代半ばを過ぎている。
かつて僕が後ろ盾となり、泣きじゃくっていた幼王も、今や立派に成人し、僕が施した最高峰の名君としての教育を受け終えていた。
だが、この長い年月の中で、国民からの狂信的とも言える圧倒的な信任を勝ち取り続けていたのは、玉座の王ではなく、その背後で『影の宰相』として君臨するこの僕だった。
当初、不当な特権を強引に剥奪されて僕を激しく逆恨みし、夜陰に乗じて暗殺の機会を窺っていた元貴族たちも、今や完全に沈黙していた。
「あ、あのカースという男は……人間ではない。神の遣わした本物の怪物だ……」
僕の政策によって、歴史上どの国も成し得なかった世界一の繁栄を謳歌する祖国の姿を見せつけられては、もはやぐうの音も出ない。
かつての門閥貴族どもは、ただ僕の圧倒的な偉大さに恐怖し、平伏するしかなかったのだ。
さらに、ミハイルとアイシャ、そして愛する養女と共に歩む私生活も、これ以上ないほど穏やかで幸福に満ちていた。
「カース様、今日もお疲れ様です。ニーナが、早くお父さまに本を読んでもらいたいと待っていますよ」
「カース、たまには息を抜きなよ。君が倒れたら、僕もアイシャも、この国だって困るんだからね」
愛する家族の笑顔に囲まれる日々。
まさに、我が世の春。
僕が築き上げたこの完璧な治世は、永遠に安泰である――。
誰もがそう信じ、僕自身もどこかで、かつてその両手を赤黒く染めた血塗られた過去を忘れかけていた、まさにその時だった。
――ガチリ、と。
運命の歯車は、再び残酷な音を立てて回り出す。