【本編20万字完結】カストラート 〜傾国の歌劇(オペラ)〜【幕間更新あり】
静まり返った王宮の謁見の間。
重厚な扉が開かれ、ついに捕縛された反乱の首謀者数名が、冷たい石床の上へと容赦なく引きずり出された。
その中央に、泥と血に塗れながらも、未だ傲慢に背筋を伸ばして僕を見上げる青年がいた。
――オーギュスト。
彼は、かつて僕が地下牢の暗闇で徹底的に磨り潰した実の弟、ジュリアスと全く同じ顔で、激しい憎悪を滾らせて僕を睨みつけていた。
その姿、その双眸を見た瞬間、僕の背筋に、悍ましい『血の呪い』の悪寒が走る。
((——ああ、どうして……。どうして戦場で死んでいてくれなかったんだ……。そうすれば僕の手をこれ以上、地獄の泥で汚さずに済んだのに……))
『カース、怯んじゃダメよ……!目をそらさないで。これが私たちの背負った業なの。終わらせるのよ、あなたの手で、この最悪の歌劇を!!』
脳内で『私』が、自己嫌悪に震える僕の心を強く、激しく叱咤する。
僕は震えそうになる声を鋼の仮面で覆い隠し、国王が座る玉座の影から、冷徹極まるソプラノの声を響かせて最後の手向けを言い渡した。
「……反逆罪、および尊属殺人の罪により――オーギュスト・ド・デキムス、ならびに反乱首謀者一同に、即刻『斬首刑』を処する。直ちに執行せよ……!」
「はははっ!断罪人ぶるなよ、叔父上!……ふん、呪われろ、カース……!どれだけ聖人のように取り繕おうと、貴様も私と同類の、血に飢えた狂犬だ!お祖父様の首を撥ね、父上を嬲り殺した、薄汚い化け物がァ!!」
オーギュストは近衛兵たちに力任せに押さえつけられ、床に顔を擦り付けながらも、狂ったように嗤い、呪詛の言葉を吐き散らし続けた。
その、自らの狂気に殉じるような姿は、あの悲劇の調印式の日、狂乱の中で母上の首を折ったジュリアスと、完全に重なっていた――。