【第一章完結】霊が導き、霊を導く悪魔祓いの異世界霊能者~異世界で霊視持ちの俺、聖魔の力で悪魔祓いやってます~
「うっ!?」
失敗作を持ってみると、手にずっしりとした重みがかかる。
まだ不完全な金属の塊にすぎないために、重心もしっかり定まっていない。
だから手にかかる重さ以上に持ちにくい。
それよりも驚いたのは、奇妙な感覚に襲われたからだった。
「……なんだ?」
まるで体が失敗作の中に吸い込まれてしまいそうな感覚がある。
手が失敗作にくっついてしまったようで離れない。
俺の中の魔力と神聖力が吸われているのだと、説明を受けていたから理解できたが、こんなに体ごと吸い込まれそうな気分になるのは予想外だった。
「ほぅ……」
吸い取った俺の魔力と神聖力を勝手に混ぜ合わせた銀のオーラを失敗作はまとう。
魔力か神聖力、どちらかに偏ると逆流が起こるとオッドバースは言った。
ならば両方等しく流し込めばどうなるのか。
「まだ欲しいのか? ならくれてやるよ」
結構吸われた感じがある。
だがまだ吸われている。
幸いにして、俺の魔力や神聖力は普通の人よりも多い。
食いたいなら食ってみろ。
腹一杯にしてやるよ、と俺は銀のオーラをまとって、失敗作に流し込む。
「おい……大丈夫なのか?」
オッドバースの声が遠くに聞こえる。
耳鳴りがして、俺は失敗作をただ見つめる。
失敗作を握っている手と失敗作との境目がだんだんと自分でも分からなくなってきた。
「エリシオ! 放すんだ!」
異様な気配を感じたのか、オッドバースが失敗作に手を伸ばす。
「うっ!?」
バチッと激しい音がしてオッドバースの手が弾かれた。
「くっ……ゲルディット……!」
オッドバースが走って出ていく。
しかし俺はオッドバースがどこにいくのか確認する余裕もなく、ただただ失敗作と向き合う。
「……くっ」
底が見えない。
失敗作はどこまでも俺の力を吸い取っていく。
このままでは危険かもしれない。
そう思い始めていた。
「何が起きている?」
後ろからゲルディットの声が聞こえてきた。
「失敗作だ……」
「ああ、なるほどな。ハンマー借りるぞ」
俺の耳には遠くから水の中を響くように聞こえてくるゲルディットの声に、なんだか不穏さを感じずにいられなかった。
「そろそろ引いてくれないか……?」
じゃないと、なんかされる。
そんな嫌な予感がする。
「悪いな、エリシオ。まあ、デラがいるから死なないだろう」
そんな抑揚のない悪いなで、悪いと思ってると伝わるはずがない。
ただ失敗作が俺の体の自由も吸い取ってしまったように動けないでいる。
「…………そんなんで殴ったら死んじゃいますよ」
動け!
そう思った瞬間、体が動いた。
俺は失敗作を振り上げて、ゲルディットが振り下ろしたハンマーを防いだ。
金属を叩くのに使うデカいハンマーを、ゲルディットは俺に振り下ろしていた。
失敗作から引き剥がそうとしたのかもしれないが、こんなもので殴られたら俺の霊魂が体から引き剥がされてしまうところだった。
「聞こえていたならさっさと動くべきだ」
銀のオーラをまとう失敗作からゲルディットはハンマーを引く。
「そうですね、俺を心配するゲルディットさんの泣きそうな声はよく聞こえていましたよ」
「……どうやら頭がおかしくなったようだな。一度殴っておくべきだろうか」
「いいんですよ? 心配でたまらなかったって言っても……うわっ!」
ゲルディットは怖い目をしてハンマーを振り下ろす。
全く、冗談が通じないんだから。
「……心配した」
「……パシェもか? まあ、心配かけたのは悪かったよ。こんなことになるとは……思わなかったんだ」
パシェはヘルムの奥から俺のことをじっと見つめている。
こっちもこっちで感情が分かりにくいが、嘘はつかないので本当に心配したのだろう。
ストレートに心配したと言われると、それはそれで返事に困る。
「にしても……こんなことになってるとはな」
周りを見るとひどいことになっていた。
壁にかけられていた武器やテーブルに載せられていた道具なんかが、床に落ちてしまっている。
「お前がやったんだ」
「俺が?」
「お前の周りに風が渦巻いていた。なんなのかは知らないが、そのせいだ」
「まあ、俺のせいというか、こいつの……」
「エリシオ!」
「えっ?」
ここまで妙に無言だったオッドバースが突然俺の肩を掴んだ。
普段からハンマーを振るうオッドバースの力はただでさえ強い。
それなのに今は興奮しているのか魔力まで漏れ出していて、さらに力強く指が減り込むほどだ。
「痛いですよ? なんですか?」
「お前はそれに触れていても平気なのか!」
オッドバースの顔面が俺に迫る。
男と吐息が触れる距離に近づく趣味のない俺は思わず眉をひそめてしまう。
「今のところ平気ですね」
失敗作が力を吸い取るような感じは一切なくなった。
「むしろ体の一部……というには重いけど、魔力や神聖力は体レベルでスムーズに込められますね」
自分の体のようだ、というには失敗作はあまりにも金属の塊にすぎる。
ただ俺はいまだに銀のオーラをまとっていて、失敗作にも同じく俺の銀のオーラがまとわれている。
腕や足に銀のオーラをまとうのと同じレベルのスムーズさで、失敗作にもオーラを込められていた。
その点ではまるで俺の体のようでもあった。