【第一章完結】霊が導き、霊を導く悪魔祓いの異世界霊能者~異世界で霊視持ちの俺、聖魔の力で悪魔祓いやってます~
「大丈夫か?」
たとえ仲が良くなかろうとも仲間であった。
仲間を失えば大なり小なりショックは受けてしまう。
ペアになっていたなら少なくとも他の人よりショックを受けてもしょうがないことである。
夜になり、次の町に着くことができなかったので野営する。
ぼんやりと焚き火を眺めるクレンシアに俺は声をかける。
「エリシオさん」
「メルティア……だっけか、あの子」
クレンシアのペアだったこの名前はメルティアと言った。
地味で目立たぬ子であったが、男が多い聖騎士の中で女性でその道を歩もうとしていた強い子であった。
死体は回収されて、近くの教会で埋葬される。
綺麗に保ったまま死体を搬送なんてできないのだからしょうがない。
焚き火を眺めるクレンシアは暗い顔をしていた。
俺はクレンシアの隣に座る。
「仲良かったのか?」
「仲が良いかと聞かれると微妙なところです」
いつもの快活さがなりをひそめ、クレンシアは膝を抱える。
「同じ女性でしたのでお話しすることは多かったです」
悪魔や魔物と戦う都合上どうしても聖騎士の志願において女性は少ない。
男どもに比べて数の少ない女性は集まっている印象が俺の中にはある。
「ただそんなにそんなに相手のことを知っていたかと聞かれるとそれほどでも……ないんです」
同性だから固まっていて、それなりには交流があった。
友人だと言ってもいいだろう。
ただ仲が良いかどうかはクレンシア自身も分からないようだ。
ペアで組んだのもグループ内にいた唯一の同性だったからという側面は大きいのだろう。
「でも……前向きに頑張ろうと……してました」
パーソナルなことは知らない。
けれどもメルティアが聖騎士になろうと努力していたことは知っている。
「彼女を守ってあげることができませんでした」
「なぜ守らなきゃいけない?」
知り合いを失う気持ちは分かる。
きっとあの時こうしたら、なんて頭の中で考えていることだろう。
だがそんなものいくら考えても答えは出ないし、時を戻すことだってできない。
「聖騎士において、自分の身を守るのは自分だ。一番悪いのは悪魔だ。けど、次に悪いのは自分の身を守れなかった自分なんだ。お前が悪いのは、その次だな」
「そんな言い方……」
「これから選択を迫られるような時が来るかもしれない」
死んだメルティアが悪いと言われて、クレンシアはカチンときたように俺のことを見る。
そんな目で見られても俺の意見は変わらない。
優しく誰のせいでもないというつもりもない。
「誰かの命が両手からこぼれ落ちる。助ける人と助けられない人を選ぶ時があるかもしれない。何かを犠牲にして多くを助ける必要がある時があるんだ。あるいは多くを犠牲にしても何かを守る時もある」
俺の言葉にクレンシアの瞳が揺れる。
「時には……助けられないことも、どうしても存在してしまう。悲しむなと言うつとりはないさ。でも後悔しても死人は生き返らない。それなら前を向け」
「前……ですか?」
「そうだ。聖騎士の前には、悪魔がいる。悪魔を倒せ。死んだ人の分まで戦え。それが……弔いになる」
「……どうして、エリシオさんはそんなに強いんですか?」
前を向けというのは簡単だ。
口で言うだけなら誰にでも、いくらでもできる。
「俺はもう色々背負ってるからな。そいつらのためにも……下を向いてる時間すら惜しいんだ」
俺は焚き火に目を向ける。
全ての始まり。
俺の家と両親を燃やし、まだくすぶる火種が視界の端に映っていたことを思い出す。
「ほとんど話したこともないけどさ。仲間として戦ったんだ。俺はあいつの分まで戦う。悪魔を一体でも多くぶった斬ってみせる」
今でもあの日のことは昨日のことのように思い出せてしまう。
少しは風化したかなと思う度、悪魔の所業が俺の心の炎を再び燃やす。
人の死が俺に立ち止まることを許さない。
「強いんじゃないさ。強いならきっと……何もかも忘れて生きていたのかもしれない。弱いから……弱いから俺は全てを背負うしかないんだ」
「…………エリシオさんは弱くないです」
クレンシアはそっと手を伸ばして、俺の手に重ねる。
「私……少しだけ甘く見ていたのかもしれません。聖騎士になる覚悟は揺らぎませんが、聖騎士として戦う覚悟がまだできていなかったのかもしれません」
実際戦ってみると色んなことが起こる。
今のこの場で仲間の死を経験できたのは、ある意味で貴重なものだったのかもしれない。
「ありがとうございます……慰めようとしてくださって」
「泣いてる女の子、ほっとけるほど強くないんでな」
「……泣いてませんよ」
「そうか? 俺にはそう見えなかった」
教皇の娘ということでクレンシアのことを警戒していた。
だが、思っていたよりもクレンシアは優しさを持っているようだ。
「私も背負います。メルティアの分まで戦います」
一度目を閉じて、再び開かれたクレンシアの瞳には意思が宿っていた。
優しいだけじゃない。
強さも持っている。
「ああ、きっとメルティアもうかばれるさ」
メルティアは俺が成仏させた。
だから今もうどんなふうに思っているのか知りようもない。
今後もきっと助けられないことはある。
でも、それでも前を向くしかない。
そして俺の向く先には倒すべき悪魔どもがいる。
俺は前に進んで悪魔を斬るので、クレンシアは悪魔に怯える人を助けてくれればいい。
俺はそんなふうに思ったのだった。