魔王が滅ぶその日まで
重い門をくぐると、景色はゆっくりと姿を変えていった。
岩山は少しずつ遠ざかり、代わりに広い草原が目の前へ広がる。
風が草を揺らし、青い波のように一面を駆け抜けていく。
「きれい……。」
思わずフィオナの口から言葉が漏れた。
遠くには小さな村が見える。
白い煙が屋根の上へゆっくりと昇っていた。
畑では何人もの人が畑を耕し、道端では子どもたちが楽しそうに走り回っている。
その後ろを、小さな犬が懸命に追いかけていた。
ララが小さく笑う。
「あの子、転びそう。」
ちょうどその時だった。
子どもが石につまずき、前へ転ぶ。
「あっ。」
二人が同時に声を上げた。
だが子どもはすぐに立ち上がり、土を払うと何事もなかったようにまた走り始めた。
犬も嬉しそうに後を追いかける。
「よかった。」
フィオナは胸を撫で下ろした。
「うん。」
ララも安心したように笑う。
荷馬車は村の横をゆっくりと通り過ぎていく。
道端で遊んでいた子どもたちが、荷馬車へ気付いて手を振った。
フィオナは驚きながらも、小さく手を振り返す。
子どもたちは嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、フィオナも自然と笑顔になる。
◇
昼を過ぎる頃、一行は街道脇で休憩を取ることになった。
護衛たちは馬に水を飲ませ、それぞれ腰を下ろして休み始める。
奴隷たちも順番に水を受け取り、少しだけ体を休めていた。
フィオナとララは並んで木陰へ座る。
吹き抜ける風が心地よかった。
「王国って広いね。」
ララが空を見上げながら言う。
「うん。」
フィオナも同じ空を見上げる。
青い空には白い雲がゆっくり流れていた。
しばらく二人は黙ったまま空を眺める。
静かな時間だった。
「ねぇ、フィオナ。」
「なに?」
「これから、どんな人のところへ行くんだろう。」
その問いに、フィオナは少し考える。
「分からない。」
「……だよね。」
ララは苦笑した。
「でも。」
フィオナが続ける。
「優しい人だといいね。」
「うん。」
「ララも。」
「フィオナも。」
二人は顔を見合わせる。
そして、どちらからともなく笑った。
◇
休憩を終えた荷馬車は再び街道を進み始めた。
夕方になるにつれ、空は少しずつ赤く染まっていく。
揺れる荷馬車の中で、ララがぽつりと呟いた。
「ずっと一緒だったね。」
フィオナは頷く。
「うん。」
「最初は怖かった。」
「私も。」
「でも、フィオナがいたから頑張れた。」
フィオナは少し照れくさそうに笑う。
「私も、ララがいたから。」
二人はそれ以上何も言わなかった。
言葉がなくても、不思議と気まずくはない。
荷馬車は静かに揺れ続ける。
その時間が、ずっと続けばいいと願うように。
しかし、その願いとは裏腹に、馬車は少しずつ目的地へ近づいていた。
(第八章・後編へ続く)