魔王が滅ぶその日まで
「今日は仕事はお休みだ。」
朝食を終えた頃、管理人が共同生活棟に集まった皆へ告げた。
子どもたちの間から小さな歓声が上がる。
「本当ですか!」
フィオナが真っ先に声を上げる。
「本当だ。」
管理人は小さく笑った。
「今日は全員、身体を清めてもらう。髪も整える。新しい服も支給される。」
「やったー!」
フィオナは飛び跳ねるように喜んだ。
隣のララも驚いたように目を丸くしている。
「新しい服……?」
「楽しみだね!」
フィオナが笑うと、ララも小さく微笑んだ。
「うん。」
⸻
午前中は入浴だった。
大きな浴場には湯気が立ち込め、久しぶりに張られた湯へ子どもたちが次々と入っていく。
「気持ちいい!」
フィオナは肩まで浸かり、大きく息を吐いた。
「ララもおいで!」
「う、うん。」
最初は遠慮していたララも、そっと湯船へ入る。
「……あったかい。」
その一言に、フィオナは嬉しそうに笑った。
「ね!」
二人は顔を見合わせて笑い合う。
浴場のあちこちからも笑い声が聞こえていた。
今日だけは、皆どこか浮かれている。
⸻
風呂を上がると、今度は髪を整えてもらう番だった。
長く伸びた髪を丁寧に梳かし、絡まった毛先を少しだけ切り揃える。
フィオナは少しくすぐったそうに笑っていた。
「じっとしてなさい。」
「はーい。」
「終わったわよ。」
「ありがとう!」
鏡を覗き込む。
「わぁ!」
髪がさらさらになっている。
「なんだか大人っぽい!」
その言葉に周囲の大人たちが笑った。
⸻
「ララ、終わった?」
振り向いたフィオナは思わず言葉を失った。
「……きれい。」
淡い茶色の髪は艶やかに整えられ、白い肌はいっそう透き通って見える。
まるで物語の中のお姫様のようだった。
「そ、そんなことないよ。」
ララは恥ずかしそうに俯く。
「あるよ!」
フィオナは何度も頷いた。
「すっごくきれい!」
その真っ直ぐな言葉に、ララの頬が少しだけ赤く染まる。
「ありがとう。」
⸻
午後になると、一人ひとりへ新しい服が配られた。
質素ではあるが、今まで着ていた服よりずっと綺麗だった。
「似合う?」
フィオナがくるりと一回転する。
「うん。」
ララも笑う。
「フィオナらしい。」
「ララも!」
「ほんと?」
「うん!」
フィオナは満面の笑みで答えた。
「すっごく似合ってる!」
ララは照れながら、小さく裾を摘まんだ。
⸻
夕食は、いつもより少しだけ豪華だった。
温かなスープ。
焼きたてのパン。
少しだけ大きなお肉。
子どもたちは皆、嬉しそうに笑っている。
「今日はいい日だね。」
フィオナがそう言うと、向かいに座る老人は少しだけ目を細めた。
「そうだな。」
その笑顔は優しかった。
けれど、どこか寂しそうでもあった。
⸻
夜。
寝台へ入ったフィオナは隣を見る。
ララも静かに横になっていた。
「ララ。」
「なに?」
「明日はどんな一日になるかな。」
ララは少し考えてから答える。
「今日みたいに、いい日だといいね。」
「うん。」
フィオナは嬉しそうに微笑んだ。
「きっとそうなるよ。」
消灯の鐘が鳴る。
共同生活棟は静かな眠りに包まれた。
誰もが明日を迎える。
それぞれの運命を知らないまま。
明日、この街では三年に一度の競売が始まる。