召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲、謎のウェブサイトに遭遇
9月になって大学の授業が再開された頃、玲の下宿にはかすみの姿はなく、玲がただ一人パソコンの前に座ってブラウザを開いて検索をかけている。今回も卒論に関する調査の一環であるが、流石に少しは慣れた手つきで検索項目を入れて検索をかけ続ける。ちなみに、ほぼ毎日のように玲の下宿に通っていた物部かすみは、前回の調査からの帰還後、なぜか玲の下宿に姿を見せなくなった。それで心配した玲がかすみに電話すると、一応出てくれて、元気にやってるから大丈夫と、ほぼ決まり文句のごとく毎回同じことを繰り返す。もし何かあれば連絡くれるだろうと楽観的に考えて、自分は他の事に集中しようと、今はパソコンでの検索に取り組んでいるのである。
相変わらず、キーボード入力よりも音声入力の方が楽なので音声入力で検索を掛けていたが、ルーチンワークと言う物は時にイレギュラーを引き起こすことがあるもの。この日も音声入力でキーワードを指定するが、なぜか気持ちが削がれたというか、真空状態に陥ったのか、日本語ではなくサモナルドの言葉でキーワードを発してしまった。本来、意味不明な言葉であれば、検索できないか、それに近い言語のキーワードを表示したりするが、この日に限ってそのようなことはなく、画面にはサモナルドの文字が表示された。
「・・・」
「・・・・・??」
「何だこりゃー!?」
一瞬固まってしまった最神玲。まさか、サモナルドの文字がパソコンの画面に表示されるなど夢にも思わないことであった。そこで、そのサモナルド語を読んでみると、「サモナルドパラダイス」と書かれている。再び、何だこりゃーとなる。かなりふざけたネーミングであるが、どう見ても紛れもなくサモナルド人のカーンが慣れ親しんだ言葉。何も知らない地球人がサモナルド人を貶めるために作ったにしては、余りにも非常識すぎる。そう判断して玲は、画面の中央にあるボタンをマウスでクリックし、そのサイトにアクセスすることにした。すると、画面一杯にサモナルドの文章が表示された。しかも文法的には正しく表示されている。これで、悪戯の線は完全に消えたのである。
「えっ、まさか僕以外のサモナルド人が
地球に居るのか?
もしかして、僕と同じように
転生者か何かなのか・・・」
と独り言を呟くが、玲がそう考えるのは至極当然。とりあえず、サイトの中身は、このサイトの目的だとか、今後の会合の案内だとかが表示されているだけの、至ってシンプルな作りである。そして登録希望者はここをクリック、みたいな表示があったのでそこをクリックして、まだ若干疑わしいと思いつつ、とりあえず必要事項を記入して送信。うーん、何か詐欺関係のサイトであれば、これ一発で「カモ」確定だな、一人呟く玲であった。だが、態々地球に存在しない言語で詐欺する理由が見当たらないので、暫し連絡を待つことにした。
二日後、自分が登録していたPCのメールアドレスに返信があった。しかもなぜかサモナルド語で[登録完了]と書かれている。いやいや、どうやってメールにサモナルド語を表示できるんですか?この時点で玲にとっては、詐欺確定みたいな状況であるのだが。ちなみに、このメールは手書き文字をスキャンして画像として認識させてそれを張り付けて送信しているに過ぎないが、パソコン知識ゼロの玲に全く気付く気配はない。さて、頭のどこかで詐欺かな、詐欺かなと鳴り響いているも、やはり気になって添付されているURLをクリックし、更に詳細な必要事項を記入して送信してしまう玲。
後日分かったことであるが、そのメールアドレスは、ある有名なファッションデザイナーの個人用のメールアドレスであり、それを公開しているのはサモナルド人だけだと本人が言っていた。ちなみに、そのデザイナーのブランドは、かすみもお気に入りで、偶に彼女のショッピングに付き合うときに、そのブランドを扱う店を覗いては、「いいなー」とか「これ欲しいなー」とか呟く姿を度々目撃していた。これは要するに僕に買ってとおねだりしていたのかと、今となってはそう思う玲である(尤も、玲でもそのブランドに手を出すには高額ではあるが)。そんな、有名ブランドを手掛けるデザイナーから、次の会合にぜひ参加してとの招待を受けたので、OKの返信をすることに。しかし、会合場所が海外だと簡単に行くことが出来ないことに気づき、もしそうならやばいぞ、と狼狽える始末。急ぎ会合場所によりますと追伸したが、玲の不安は消えないまま。でも相手もそこは分かっているのか、会合場所を玲の住む東洛市にしてくれるとか。えっ、こんな東京や大阪とは違う一地方都市に来てくれるなんて、そんなに気を使ってもらわなくても大丈夫ですけど、とかなり恐縮して再び返信するも、全然問題ないからと軽―い返事が届く始末。と言うことで、会合を楽しみに待つ玲であった。
そして、待ちに待った会合を迎えた9月のある週末。会合の場所は、サークルの打ち上げでよく使われる玲にも馴染みのある地元の大衆酒場の10人程が入れる個室。そこでこの謎のウェブサイトの会合が開催されるのである。こんな地元の有名でもない大衆酒場で会合って、益々怪しいと思ったりするが、それ以上にどんな人達が来るのかに興味が注がれる。そこで、居ても立ってもいられず、定刻の少し前に行ってみることにしたのである。部屋に入ると、そこには一人の女性がノートパソコンに何か打ち込んでいる姿が。その外見は、かすみの憧れのブランド「ロムリア」のロゴが入った黒のキャップとそこから覗く艶のある金色のショートヘア、服装は一見カジュアルだがどことなく洗練された装いは流石一流ファッションデザイナー。そして、彼女と目があった時に確信した、右目が金色、左目がエメラルドグリーンの瞳を持つ特徴的なオッドアイ。この人が謎のサイトの主催者であり、ブランド「ロムリア」の創設者、タチアナ・エグリスコバであった。
「あ、あの、今晩は。タチアナさんですか?」
と久し振りにサモナルド語で話す玲。そして相手も綺麗なサモナルド語で
「あー、あなたがレイ・モカミさんね。
初めまして、タチアナ・エグリスコバよ。
宜しくね」
とお互いに握手する。いや、ここはサモナルドの挨拶にした方がよかったか、と思わないでもないが、タチアナはごく自然に右手を差し出したので、その手を握っての挨拶となったのである。玲は、タチアナの仕事の邪魔にならないように少し離れた席に着いたのだが、
「あら、今日の主賓なんだから、
遠慮せずこちらに座って」
とタチアナは自分の正面の席を指し示す。僕が主賓ですか、とまたまた恐縮しながらも、言われた席に落ち着くことにした。ところで、玲にはどうしても気になることが、
「タチアナさんは、
いつこちらに来られたんですか?」
タチアナ程の著名人であれば、ニュースとかで報道されたりすると予想されるが、ほぼ毎日テレビのニュースを見ている玲でも、タチアナ来日の報道は全く見かけなかった。そんなことを話すと、
「私はつい先ほどこちらに着いたのよ」
うーん、それは分かりますが、何か質問の仕方を間違えたかなと不安に思う玲。暫くサモナルド語を使ってないから通じないとかは無いと思うけど、と何か意思疎通に問題ありそうで更に不安に陥る玲である。ところが、
「あー、そうね、レイ君と呼んでいい?
レイ君も転移できるでしょ?
それを使って、つい先ほどパリから
直接ここへ来たの」
あー、なるほどねー、転移ねーって、えーーー!?て、て、転移だって!! 玲が驚くのも無理はない。と言うのは、最神玲ことカーンのいた時代は、転移術は完全に失われた存在だからである。
「あれ、何か口開けて驚いて
固まっているみたいだけど大丈夫、
レイ君?」
と何か面白い物を見たように笑みをこぼすタチアナ。は、はい、だ、大丈夫です、と声を詰まらせながらも何とか我に返って返事をする。でも気持ちは全然大丈夫ではないが。
「す、すみません、取り乱しまして。
僕は転移とか全くやったことないので、
それでちょっとビックリしたところです。
あ、あのー、他の方ももしかして
転移して来られるんですか?」
「それはそうよ。流石にここへ
車で来るのは大変だもんね、
って、あー、ほら、丁度二人ほど来たわよ」
入口の方に振り返って見たところ、体格のいい男性二人組が手を上げて挨拶しながら入って来た。そして、口々に、お久しぶりですとか、元気?などと簡単な挨拶の後で、タチアナが玲を紹介した。
「こちらが、新入会員のレイ・モカミ君です。レイ君、こちらの顎鬚を生やした方がアルメラ、もう一人の帽子をかぶっている方がグリミアムよ」
席から立ち上がって宜しくお願いします、とお互いに握手を交わす。ちなみに、アルメラとグリミアムは、ともに軍人。確かに両名共に軍人というくらいに、がっしりとした体格である。しかも、サモナルドでも軍人で、地球でも軍人。生まれてから軍人以外をしたことない両名であった。ただし、アルメラは空軍、グリミアムは海軍と言うことで、サモナルドにはどちらも馴染みのない軍隊ではあるが、アルメラの入隊動機は単に空を飛ぶのに魅力を感じたから、そしてグリミアムはサモナレイクの漁師町の生まれで大型船への憧れがあったからとか。さて、挨拶している間に、タチアナはスマホで電話をしながら部屋の外に出て行った。雰囲気からして、こちらに向かっている残りの参加者を迎えに行った様だ。そして玲は、どうしてもアルメラ達に確認したいことがあり尋ねるのであった。
「あの、お二人とも、
ここへは転移して来られたのですか?」
「おう、そうだよ。ただな、俺たちは
どちらも今は日本の佐世保と、
あっこいつは沖縄ってところで働いているんだ。
だから、転移と言っても、
数回ほどするだけなんだが。
まあ、あれは俺たちみたいな
召喚術師でもなく召喚エネルギーの
無い連中には、そこそこ負担がかかるんだよな」
と言うのはグリミアム。このとき、玲の召喚術に対する飽くなき好奇心が頭をもたげて来て、つい疑問をぶつけてしまうのである。
「えっと、お二方、今何気に凄いことを
仰ってましたが、まず皆さんは
召喚術師ではないのですよね?」
「おー、違うよ。俺もグリミアムも生粋の軍人。
で、生粋の召喚術師は、
今出て行ったタチアナさん。
ちなみに、俺たちが転移できるのは、
タチアナさんが用意してくれた
転移用のアーティファクトのお陰。
転移術でパリから日本へ一瞬で
長距離転移出来るのはタチアナさん位しか
いないんだな」
何だ、その不思議アイテムは!まだ会合が始まってすらいないのに、もうかなり濃密な時間を過ごしている状況の玲であった。
「いやいやいや、近距離であれ長距離であれ、
転移できること自体信じられませんよ。
僕のいた国、ケンタリアと言いますが、
そこでは転移は失われた技術で
誰一人知らないんですからね」
「うーん、俺も専門家ではないが、
その話も俄かには信じ難いな。
まず、少なくとも俺の故郷の
サモナレイクの周囲に
そんな名前の国はなかったし。
まあ、尤もサモナルド自体でかい惑星だから、
俺たちの知らない国や地域があっても
おかしくはないかもしれないがな。」
「けどよ、グリ、俺たちのいたロムリアでは、
ある程度サモナルド全体の様子は
分かるようになってんだから、
未知な国とかなさそうな気がするんだけどな」
玲がどんなに説明しても、アルメラとグリミアムの二人とも失われた転移術のことやケンタリアの存在を否定するのであった。
そんなにマイナーな国なのかと、かなり落ち込む玲であったが、丁度その時タチアナが戻って来て、アルメラが彼女の意見を聞くことにした。
「あっ、タチアナさん、
ちょっと聞いてもらえます?
こちらのレイ君なんだけどな、
どうも俺たちの国ロムリアを
知らないようなんだ。
逆に俺たちも彼の国、
ケンタリアだったっけ、
を知らないんだけど、
タチアナさんどう思う?」
「そうなのよね。私もケンタリアという国は
聞いたことないのよね。
レイ君から連絡もらって、
個人情報を登録してもらったじゃない。
その時にケンタリアと書いてあったんで、
ちょっと気になって、
今日参加してない他の人にもメールとかで
聞いてみたの。
でも、だーれも知らないというのよね」
玲は只今絶賛パニック中。何とか気を取り直して、更に聞こうとしていたところで、残りの参加者(男女)が到着。ここでも、早速玲は立ち上がってお互いに自己紹介することに。男性の方はレオニード、女性の方はエカテリーナと名乗り、彼らは共にサモナルド人だが、地球で結婚して夫婦関係にあるとのこと。現在は、北方の大国に住んでおり、夫の方は大統領警護隊、妻の方は連邦捜査局勤務となかなかハードボイルドな方達であった。
「これで皆揃ったようね。
では、久し振りのサモパラ懇親会を
開催します。カンパーイ」
タチアナの合図で会合という名の懇親会が始まった。まずは、アルコールで喉を潤し、次々と運ばれてきた揚げ物、焼き鳥、唐揚げ、刺身の盛り合わせ、チーズに枝豆、豆腐サラダなどと言った、玲の所属する心霊サークルの打ち上げではお馴染の料理の数々に、みな舌鼓を打ちつつ、和気あいあいと進むのであった。
今回の会合は玲の地元開催ということで、参加者は皆、彼を色々と気にかけていたようで、ついこの間まで独りぼっちのサモナルド人かと寂しい思いをしていたが、今は同郷の仲間ができてとっても充実している玲ことカーンであった。ただ、カーンも色々聞きたいことがあったものの、主賓と言うことで専ら自分が主に話してばかりだったのであり、かなりお疲れ気味のカーンであった。
「あっそうだ、クレーターのこと
聞けばよかったーー!」
と皆と別れてから、急に思い出して夜空に絶叫してしまい、周りの人達に不審がられた玲であったが、国の名前は知らくなても、あの巨大なクレーターは絶対知っているはずだとの確信の元に、次回の会合では何かしら分かると期待しつつ、取りあえず明日も頑張ろうと誓うのであった。