召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
美少女降霊術師の心霊事件簿9: 神薙家のお宝鑑定 (後編)
さて、午後からなら再鑑定はOKと言う返事を貰った物部かすみは、昼食後に早速ラハニ・エランを連れて神薙家に向かった。ラハニは昔の侍が住んでいた武家屋敷を初めて見るようで、まるで子供の様に驚きと興奮に満ちた表情であちこち眺めていた。そして縁側から奥の本宅に向かうときも、見事な日本庭園に暫し見惚れたりしており、「コレッテ、マサニ、ニホンテキデスネ」との感想を漏らした。「仕事が終わったら後でゆっくり見るとええで」とのかすみの助言で楽しみを後に残しておくことにし、神薙家の本宅に到着後、2人は奥座敷に通された。奥の部屋では既に宗座衛門と京子が待っており、ラハニは彼らに自己紹介をした。そして「じゃあ始めようか」とのかすみの合図で緊張しながらもラハニは目の前にある絵画に降霊術を行った。すると
「おー、上手く出来たやんか。
上出来やでラハニさん!」
とかすみが上機嫌でラハニの降霊術を褒めた。そして「じゃあ、その霊体に質問して欲しいねんけど...」とかすみはラハニに対し質問事項を伝えた。残念ながら現在のイタリア語とは若干アクセントや言い回しに違いがあるものの大体の内容は把握できたようで、結果次のような事が分かった。
その霊体はデルベッキオという名の老人であり、残念ながら彼の生年月日は分からない。だがフィレンツェ共和国に住んでおり、かつその時の当主がメディチ家であるということから15世紀以降と言うことは分かった。そしてその絵は彼が晩年に描いた作品だという。以上の情報から早速かすみがスマホで検索したところ「デル・ヴェロッキオ」と言う名前がヒットした。何となく似たような名前であり、もしかして向こうの発音で「デルベッキオ」に聞こえたのかな、と思わなくもない。ただ、検索してヒットしたデル・ヴェロッキオと言う人物は、絵画だけでなく、ブロンズや機械工学や数学、はたまた音楽の才能にも恵まれていたようで、いわゆる「天才」と呼ばれるに相応しい人物のようだ。更に
「デル・ヴェロッキオって人は、
どうやらあのレオナルド・ダ・ヴィンチの
師匠らしいで!」
とかすみが驚きの声を上げた。これにはラハニもしかり、宗座衛門も京子も当然レオナルド・ダ・ヴィンチは知っており、もしその師匠であれば、その絵画の価値に十分期待が持てるのだった。そしてかすみはと言うと、
マジ、ダ・ヴィンチの師匠なら
メッチャやばない!!
その絵画の価値は凄いことになりそうだと、かすみは心の中でニンマリしていた。そこでラハニにレオナルド・ダ・ヴィンチを知っているかを聞いてもらうことにした。すると
「ダメデスネ、シラナイトイッテマス」
とのことであった。この時のかすみは、新喜劇で言うところの転びをしそうになった。念のため、デル・ヴェロッキオは多くの弟子を持っていたようなので、目の前の老人に弟子がいたかを聞いてもらった。そしてその答えも「ノー」であった。となると、この老人はデル・ヴェロッキオではないということになる。では一体どこの誰なんだ?
「やっぱなー、爺さんになってから
暇になったんで、
ちょい絵でも描いてみようか、
となっただけちゃうん」
とかすみは適当な事を言って何やら投げやりな状況になって来た。まあ、どう頑張ってもこれ以上のことは当人から何も得られないため、かすみはラハニ対し召喚解除を要請した。そしてデルベッキオ爺さんは再び霊界に戻って行った。
「叔父さん、これ位しか分からへんかったわ。
後どないするの?」
とかすみが宗座衛門に尋ねたが、まあこれだけ分かれば十分ちゃうんとかすみは心の中でそう呟いていた。ところが、
「そうだね、かすみとラハニさんの尽力で
ここまでわかったけど、
私としては一度美術商の知り合いに
相談してみるよ」
何処かの大学の美術の先生にもう一度見てもらってから最終判断する、と言うことにしたようだ。その時に、今回得られた情報も併せて提示して、何かしら参考にして貰う心算であるという。
「分かった。まあ、叔父さんの
気の済むようにしたらええと思うねんな。
また何か必要な事があれば、
いつでもうち等呼んでくれてかまへんからね」
と言って、かすみとラハニはその場を後にした。その後かすみは、ラハニの希望通り、神薙家の日本庭園と武家屋敷を案内し、ラハニが日本の建築美と庭園美を堪能したところで美土路神社に戻って行った。
かすみとラハニによる降霊術での絵画の鑑定からおよそ1週間後、事態は急変した。叔父の宗座衛門が旧知の美術商の仲介で東京にある国立大学の美術の教授を紹介してもらい、問題の絵画に関する情報を伝えた所、「直ぐにその絵を見せて欲しい」との要請を受けたため、早速差間見町の神薙家において絵の鑑定を行うことになった。一応かすみとラハニも同席が許されたので、平日ではあるが玲に社務所の業務を任せて2人は神薙家にやってきた。暫く待つとその教授と数名の助手が神薙家にやって来た。その教授、は、ルネッサンス期のイタリアの絵画を専門に研究しているという。そして早速神薙家本宅の奥の部屋にて、問題の絵画と対面したのだが、
「!!!」
目をかっと見開いたまま黙り込んでしまった。そして黒木教授は鞄の中から白いコットンの手袋を取り出して両手に嵌め、そして絵を裏返して、額縁の留め具と裏板を外して絵の裏側を確認し出した。よく見るとその絵はキャンバスと呼ばれる布地ではなく、木の板に直接描かれていることが分かった。ただその裏側には特に何かサインなどかある訳ではなく、真っな状態ではあるのだが。そして今度は額縁からその絵画をそっと外し、絵が描かれている面を横から、斜めからと色々な角度から見だした。そして丁重にその絵画を元の額縁に納めてから、「ふぅー」っと一息ついた。どうやら緊張して呼吸がままならなかったようなのだが、果たして、
「神薙さん、詳しい鑑定は専門機関に
委ねる必要がありますが...」
と一旦そこで一呼吸おいて、
「この絵は恐らくデルベッキオの作品で
間違いないと思われます」
と宣言した。黒木教授の言葉に、一緒に鑑定にやって来た助手たちは、はっと息を飲んだ。ところが、神薙家側の人間、宗座衛門を始めかすみの母の京子と、かすみ、そしてラハニはと言うと、全員が「はぁ?」であった。そう、デルベッキオなる画家の名前の意味が分かっていなかったのだ。そこでかすみが恥を忍んでデルベッキオなる人物はどういった人なのかを尋ねた。すると黒木教授が
「えっ! ご存じだったから
その名前が出たのではないのですか?」
と逆に驚かれてしまった。そこで、自分は霊能力者で、この絵画に関係のある人物を降霊して確認しただけだということを説明した。そして、論より証拠ではないが早速かすみがその絵画に対し降霊召喚を行った。そして、黒木教授と助手の人達用にかすみは霊視グラスを渡して確認してもらうと、「うわわわわわ、ゆゆゆゆゆ、幽霊だーーーー」と叫び出したので、「この人がデルベッキオ本人の霊体ですよ」とかすみはそう口にした。そしてラハニに名前を聞いてもらったところ、本人の口から「デルベッキオ」と告げられたことで、黒木教授以下助手達は驚きで口を開けたまま固まってしまった。
「あー、もしもし、黒木教授」
と言いながらかすみは黒木教授の目の前で手を振って何とか正気に戻させた。そして、
「もし教授から何か聞きたければ、
イタリア語であれば答えてくれますよ」
と言うことで、黒木教授は質問を始めた。最初は幽霊との会話に対する恐怖心から恐る恐る尋ねていたが、そのうち少しずつ慣れて来たのか、その後は何やら興奮の面持ちで会話を続けていた。そして、
「いやー、これは凄いぞ!!
凄い発見だよ、なぁ、みんな!」
と黒木教授は助手たちの方に振り向いてそう口にした。一同、「全く、こんなことが可能なんですね」などと興奮の面持ちで口々にそう呟いた。そして、
「すいません、興奮してしまいまして。
そうですか、このような方法で
確認できるとは、全く想像できませんでした」
とかすみに対し、先程の無礼を詫びたのだ。尤もかすみは全く気にしておらず、それよりも、
「それで、この絵がデルベッキオの
作品であるということやけど、
それはどういうこと何でしょうか?」
と尋ねた。すると
「実はですね、デルベッキオの作品は
世界中で数点しか確認されてないんですよ。
しかも...」
その全てはかすみもよく知る有名な美術館で保存と展示がされているという。そのため希少性の点から言うと、昔のオランダの画家であるフェルメールを上回ると言われている。ただ、
「えっ、でもここに出てたんは
爺さんやから、もっとぎょうさん
あったんとちゃいますの?」
とかすみは、当然そうだよなと言う疑問を口にしたのだが、黒木教授が言うには、霊体本人に確認した所では数十点は描いているというのだ。ところがそのほとんどは家族や友人に渡しており、それがその後どうなったかは知らないというのだ。そして
「後は大きな戦争が勃発して
それで行方不明とか火災で
焼けたみたいですね」
まあ、戦火を逃れられなかったということなのだろう。そのために希少性が出たというのは何とも皮肉と言うべきか。それとかすみは、どうしてもこれだけは聞きたく、恥を忍んで再び質問をした。
「ほいで、教授。これ売ったら
幾らくらいになるんですの?」
すると宗座衛門が顔を赤くしながら「か、かすみ、そんな事聞くもんじゃないの」と怒りながらかすみを諭すも、その表情には嫌悪感は見られないため、かすみは”まあ、叔父さんなりのパフォーマンスやな”とどこ吹く風で聞き流していた。そして
「そうですね、例えばサザビーズの
オークションに出せば
最低落札価格は数億円から、
そして百億円でも買い手は
出てきそうですね」
流石にダ・ヴィンチのサルバトール・ムンディの500億円を越えることは無いと思いますがね、ということであった。それでも、かすみからすると「まじかー」と絶叫したくなる心境であっただろう。
「尤も、叔父さんはこれを手放すことは
絶対にせえへんと思うねんけど、
何てったって親友の形見やもんね」
と宗座衛門を見てかすみはそう口にした。宗座衛門も微笑みながら「かすみの言う通りだな」と頷き返した。ちなみに京子はと言うと、先程からずっと静かな状態なのだが、実はこの時点までの話についていけてなかった。そして、この絵が数億、数十億、いやそれ以上の価値があると知った途端、驚きの余り半分意識を失っていたようだ。
これで一応この絵画の鑑定が無事済んだのだが、黒木教授としては降霊術による作者本人との対面と言う、全く新しい鑑定法に興奮を覚えしまい、早速かすみに対し色々と尋ねてきた。だが、
「一応、降霊術を行う場合、
1回につき5万円は頂戴してます。
これはうちの会社の方針何で」
と言いながら、「あっ、そうか、名刺渡すの忘れてた」と言ってかすみはM Mの名刺を黒木教授に渡した。そして、
「それと、必ずしも作者本人が
出てくる保証はありませんので
その点ご注意ください」
作者本人の魂が霊界に留まっていれば出てくる可能性はあるものの、既に別人に転生したりすると出てこないこと、また場合によっては昔の持ち主が出てくることもある、と言う注意事項も併せて伝えた。ただ、かすみとしては、降霊するのは問題ないが、霊体から得られた情報をどうやって確認するのか?あるいはそれをどうやって論文にまとめるのか?その点が気になったりするが、かすみも自分に直接関係することではないので、”まぁ、何とかするんちゃう”と適当な言い回しになってしまった。
さて、かすみとラハニはこれでお役御免となったので、叔父の宗座衛門と母の京子に帰りの挨拶をして神薙家を後にした。なお、正式な鑑定結果は、専門の機関で行う必要があると言い、しかも海外にあるため、当初、宗座衛門としてはそこまで求めるつもりはなかった。だが、やはり故人の遺言にあるように、これが名のある絵画であれば、それを一般の人に見てもらいたいという訳で、結局は黒木教授に対応をお願いすることにした。黒木教授も、世界に数点しかない絵画を日本で発見したことの名誉は授かる訳で、そのため二つ返事で早速専門の機関にコンタクトを取ることを約束した。そして彼らは満足のいく成果を得て東京に戻って行った。