召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
M M vs. 絵画窃盗団 (第1幕)
10月下旬のある日、日本国内をあるニュースが駆け巡った。それは、世界に数点しか存在が確認されていない中世イタリアのルネッサンス期の画家デルベッキオの風景画が国内で発見されたというニュースである。だが大抵の人達には、デルベッキオって誰?となるのだが、あの有名なフェルメールの作品よりも希少であり、しかも現存する絵画は全て海外の有名な美術館でしか見られないということが報道されると、その激レア感に引き付けられるように是非その絵を見て見たいと思うようになる。加えて、その風景画の価値は、オークションに出されれば落札開始価格で数億円、最終的には百億円近い値が付くのではないかと言われると、普段絵画に全く興味のない人達でも、やはりその絵画に何やら興味が沸いて来る。そして更におまけとして、そう言う絵画を違法な手段でもいいから手に入れようと画策する連中も現れる。この物語は、そう言った良からぬことを考える絵画窃盗団とM Mの絵画をめぐる攻防戦にまつわる話である。
差間見町は、町が始まって以来の大騒動に見舞われつつある。いや、正確には今年の1月以降にも似たことが起きたが、今回はそれ以上かもしれない。それは1枚の絵画がもたらした騒動である。ること1カ月程前、差間見町の神薙家で、ある絵画の鑑定が行われた。その後直ぐに専門の機関での詳細な鑑定を行うため、厳重な警戒の元、イタリアにある専門機関に送られ、そこで詳細な鑑定が行われた。その結果、その絵画は本物であるとの認定を受けるに至った。そして先日、その絵画が持ち主である神薙宗座衛門の所に戻って来た。
ところで、その絵画には名前がない。だが描いた本人曰く、それは自分の故郷を描いたものだと言うことなので、その絵画は「ふるさと」と命名された。そして描いた本人が居て、その本人が認めているからには、別にわざわざ鑑定に出す必要はないと思われるが、残念ながらそうもいかない。なぜなら、その本人は既に亡くなっているからである。しかも亡くなったのは15世紀の中世イタリアである。なぜこのような事が分かったかというと、そこには召喚術師である物部かすみが深く関わっており、この絵画のネーミングの主はかすみである。そして、10月最後の週末、かすみは神薙家の奥座敷の通称「絵画鑑定部屋(仮)」にて叔父の宗座衛門とかすみの母の物部京子の3人でこの絵画を挟んで密談を行っていた。
「かすみ、この絵が本物かどうか
念のため確認して欲しいんだが」
と宗座衛門はかすみに尋ねた。そこでかすみは降霊召喚門を設置してお出迎えを行った。すると、
「あー、大丈夫やで、叔父さん。
これ、ほんまもんや!」
と目の前にデルベッキオ爺さんが現れたことで、どうやら無事に神薙家に返って来たことが確認された。それを聞いた宗座衛門は、ふうーと溜息をついてから、姉の京子に
「じゃあ、姉さん、これを予定通り
公開するということで良いよね?」
と尋ねた。京子としては別に何のこだわりもなく、太一の思うようにすればええよ、とだけ伝えた。ちなみに、公開は米野市にある県立美術館で11月から行われる予定である。しかも常設ではなく1週間の期間限定となる。その後、東京での展示を皮切りに、全国各地を回る予定にしていた。これも一人でも多くの人に見てもらいたいという、この絵の元の持ち主であった亡き親友の遺言に従ったものである。だがその前に、デルベッキオの作品を研究したいという美術関係の研究者が世界中から問い合わせてきており、宗座衛門はその対応に追われる毎日であった。そんな中、いの一番に名乗りを上げたのが今日これから迎える研究グループである。そのグループはドイツに拠点を置く研究機関に所属し、主にルネッサンス期の絵画を研究しており、先の鑑定の時にお世話になった東京の国立大学でルネサンス期の美術を研究する教授も一時期そこで研究をしていたという。その伝手で今回も早速調査させて欲しいとの依頼を受けて、宗座衛門も黒木教授の知り合いであればと言うことで、快く引き受けた。ただし、どこで調査をしてもらうかだが、この部屋は和室と言うことや、やはり大勢が集まるには不便極まりない。そこで、神薙家の玄関横にある応接室を臨時の鑑定部屋にすることにした。
そして密会から1時間程経った頃、1台のタクシーが神薙家の武家屋敷前の道路に停車した。タクシーから降りた1人の日本人と3人の外国人は、トランクに預けてあったスーツケースを1つ取り出し、そのまま長屋門から中に入った。まさかサムライの住んでいた屋敷とは知らなかったようで、4人は興味津々な面持ちで辺りを眺めていた。そのうち日本人の通訳が神薙家に電話を入れて今到着したということを伝えた。5分程経った頃、宗座衛門が自ら武家屋敷正面まで迎えに行き、そのまま庭を通って神薙家の本宅に彼らを招き入れた。
「本日、貴重なデルベッキオの絵画を
見せて頂けること、大変感謝しております」
と通訳を通してそのグループのリーダーであるロディ―博士が挨拶を行った。そして早速デルベッキオの絵画の調査が行われるのだが、まずはどういった方法で行うのかの説明が同僚のネイ博士からなされた。それによると
「私たちの方法は、全く触れることなく検査します」
と言うことらしい。どうやら3Dスキャンをするようなのだが、早速スーツケースの中から何やら見たことのない装置をテーブルの上に載せた。そして、
「細かな形状だけでなく、
色彩も判別することが可能です」
これにより、デルベッキオの絵画の特徴をより正確に把握でき、今後の真贋鑑定に役立てるのだ、と言うような説明がされた。ちなみに、説明を受けた宗座衛門とかすみの母の京子は、ポカンとした表情で何となくうんうんと頷くだけだったが、かすみはと言うと、その話に興味津々な表情で聞き入った。
そして宗座衛門が自分の隣にあるサイドテーブルに置かれていたデルベッキオの絵を目の前の美しい細工に彩られたローテーブルに置くと、早速その装置のセッティングを始めた。かすみもその様子を興味津々に眺めていたが、
”あっ、あのままだとテーブルに傷がつくやんか!”
と思ったので、「すいません」と一声かけて、近くに仕舞ってあったテーブルクロスを持ってきて、そのデバイスの下に敷くことを提案した。研究者たちは何が行われるのか分からなかったが、かすみが「テーブルに傷をつけないためです」と断ったので、早速作業を一旦止めてかすみの手伝いを始めた。その時ふとかすみがそのデバイスに触れた時、”おー、こいつも召喚できるやんか!”と心の中で雄叫びを上げていた。そう、召喚術師は何かに触れれば、その物に表示される術式を召喚の書に書き込むことで召喚することが可能になる。早速、そのデバイスの術式をかすみは自分の召喚の書に密かに記入した。
ところでかすみはこのデバイスを何に使うのか?実はかすみには今の所使い道はない。ではなぜ心の中で雄叫びを上げながら召喚の書に記入したのかと言うと、最神玲に売りつけるためである。尤も玲もかすみもお金は十分あるので、玲からお金を貰うつもりはない。むしろかすみとしたら、次の1週間の自分の料理担当を引き続き玲にやってもらうことを考えており、その為の取引材料としようとしていた。何とも子供じみた発想だが、かすみが他に何か欲しいものがあるかと言うと特にないため、これは仕方ない。一方の玲だが、彼はとにかく珍しい電化製品は何でもコレクションするようで、こんな物一体どこで使うのか?とか、こんなん男の玲が必要か?なんて物までとにかくコレクションしている。似たようなことは、今はサモナルドに戻ったタチアナことセラスティナも、地球では数多くの軍事装備品をコレクションしていたが、ある意味召喚術あるあるでもあった。ただ、コレクションすると部屋の中が凄いことになるというのはよく聞く話だが、召喚術師の場合、コレクションで部屋が狭くなるとか、そう言った問題は一切起きない。精々、召喚の書に多くの術式が書かれるため、ちゃんと整理しないと訳が分からなくなる、と言う問題くらいだろうか。そして、そんな玲のコレクションにこの3Dスキャナーが新たに加わりそうなのだ。
さて、かすみが1人ニンマリしている間に、絵画のスキャンの準備は整ったようで、早速スキャンが始まった。と言っても何やらゆっくりと装置が動いているが、要するに文書用のスキャナーのようにゆっくりとレーザーを照射して形状を認識し、特殊なカメラで色情報を取得しているのだ。そして30分程すると、「終わりました」との通訳の言葉で作業は終わった。そして取得したデータはそのままパソコン上で見られるようで、早速過去にスキャンしたデルベッキオの作品との比較が行われた。すると
「やはり、この作品はデルベッキオの特徴を
良く表しているようです」
と言うことのようだ。ちなみに、そのパソコンには他のデルベッキオの作品も収められているということで、それを見せてもらうことにした。
「へぇー、あの爺さん、
人物画も描くんやな」
とはかすみの呟きである。隣にいる宗座衛門もかすみの呟きに反応して「そうだね」と答えるが、別に彼らにはそれ以上の感想はない。今もってあのデルベッキオ爺さんがそんなに有名な画家とは考えていないからである。それよりもかすみとしては、一つ気になることがあったのでその点を聞いてみることにした。
「すいません、今読み取ったデータを使って、
それこそ偽物を作れたりするんですか?」
細かな凹凸や色の表現が数値化されているのであれば、それを使って模造品、いや贋作が出来ないのか、と言う懸念である。これに対するロディ―博士の答えは、「分からない」であった。油絵独特の立体感は恐らく表現できるだろうが、そこに色を乗せるのはかなり難しいのではということらしい。特に様々な色が混ざり合った場合、それをどのような割合で調合して塗るかについては、想像できないという。勿論
「時間をかければ、細かな色の調整をしながら
作り上げることは不可能ではないです」
と言うことのようだ。それでも、専門家が見ると明らかに偽物であることは直ぐに分かるようだ。
それともう一つかすみは聞きたいことがあるので、意を決して尋ねることにした。
「すいません、このスキャナーですが、
これで洋服とかスキャン出来ますか?」
一瞬研究者たちはキョトンとした顔をするが、かすみが洋服の色の細かな混ざり具合を知りたいが、このスキャナーは色も認識できるようだから、もしかして可能なのかどうかが知りたいことを伝えると、
「洋服はやったことは無いみたいです。
ただし、色自体は恐らく
認識出来ると思います」
との答えが返って来た。それを聞いたかすみは”玲に売りつけるだけでなく、自分も何か使えそうやんか!!”と心の中でガッツポーズをしていた。ちなみにお幾らですか?と値段を尋ねると、数千万円と言う答えが返って来た。
「絶対買えませんね、ははは」
と笑って誤魔化すが、心の中では”もう既に頂いてますよー”であった。そして30分程この絵画についての話が行われた後、彼らは満足のいく結果を得て帰国の途に就いた。