召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
M Mの別荘作り (第3幕)
さて、M Mの別荘地に最初の離れが出来てから2週間後の12月初旬、季節はもう師走である。いや、それよりも直ぐに新年を迎えることになる時期である。そんな慌ただしい時期の週末の早朝のまだ薄暗い、日の出まであと30分以上待つ必要のあるこの時間に、最神玲と物部かすみ、そして神室霊華とラハニ・エランの4人は、ライトアップされた彼らの念願の別荘を前にささやかな落成式を行っていた。この日の数日前に玲はかすみに、今度の週末に別荘の落成式を行おうかと提案した所、
「折角やから、ラハニさんも招待せな!」
と言うことで、かすみはラハニにメールを送った。すると直ぐに[わたしもさんかしたい]と短い返信が届いたので、彼女の活動できる時間を調整して、週末の早朝に行うことになったのだ。勿論かすみがラハニの自宅を訪れて、彼女を転移で連れてきたのだった。
「ナンテステキナ、ベッソウデスカ...」
と開口一番、ラハニは両手を前に組んで祈るような姿勢でそのような感想を漏らした。4人の目の前にえる別荘は、母屋が総2階建てのログハウスである。外壁は落ち着いた感じのブラウン系で塗装され、まさに雑誌などで見かけるログハウスの風貌を備えていた。窓は全てドレーキップ窓という1つのハンドル操作で内倒しと内開きの2つの開閉を行えるという、何やら流行りの窓である。ただしリビングには2重サッシのガラス扉を設置しており、そこから外のウッドデッキに出入りすることが出来る。そしてこの別荘の、恐らく唯一の特殊な点は、切妻屋根の上に載っているものであろうか。切妻屋根の斜面上に何本もの樹木が林立しているのだ。ただしこれらは本物ではなく、玲が召喚した召喚物である。なぜこのような事をしているのかと言うと、勿論これには理由がある。それは、上空から見ると、何もない山林の中にポツンと建物が聳え立つのだが、これは却って目につきやすい。そこでカモフラージュの為に、玲は屋根の上にバレル型召喚門を設置し、そこに樹木を召喚したのだ。これにより、上空を通過する飛行機などからの視界を遮る効果が期待される。ちなみに、彼らの住む離れについては、そもそも森林の中に作られているため、余程目を凝らさないと見つけることは出来ない様になっている。
さて、早速母屋の中に入った4人は、吹き抜けになっているリビングのそれぞれ思い思いの場所にて寛いだ。ちなみに、別荘内にある殆ど全ての家具は、神室霊華が厳選した高級家具である。それらは一度神室邸に搬入された後、神室霊華が転移で持ってきたものである。流石は両家のお嬢様だけのことはあり、それらの品はどれも上品で洗練されているだけでなく、ログハウスの雰囲気にピッタリな物ばかりであった。
「流石、霊華さんの趣味はメッチャええな―」
とかすみは感心しきりである。その言葉に神室霊華は微笑みながら「師匠にお褒め頂き有難いです」と感謝の言葉を伝えた。それから2階にあるゲストルームを見て周り、その後は各自専用の離れに向かった。離れに行くには母屋の裏口から出るのだが、そこから各自の離れまでちょっとした石畳の小道が敷かれており、その傍には足元を照らすための石灯篭が置かれている。これは今年のM Mの慰安旅行で訪れた旅館の雰囲気を真似た演出であった。だが、ラハニは何やら夜明け前の幻想的な雰囲気に感動して、その場に立ち止まって辺りを見回したりしていた。
その後、離れの傍の地下に設けられた玲とかすみの作業場を訪れるのだが、そこに行くにはちょっとした秘密基地感を味わえる演出がされている。それは、
「僕の部屋とかすみの部屋の
クローゼットの中にね、隠し扉があって...」
と言いながらクローゼットの中に隠されているボタンを押すとクローゼットの裏側が開いた。そこから地下に続く階段を下りて行くと、ラハニと神室霊華は
「ウワー、ヒロイクウカンガアルンデスネ」
「すごく素敵な空間ですね。
これが地下に作られているなんて...」
とその広さと明るさに感動を覚えたようだ。そして神室霊華は
「師匠の工房もこんな感じなんですか?」
とかすみに尋ねると、「そやで、これで思いっきり作業できるわ!」と満足な笑みを湛えていた。
「もしお2人とも必要になったら、遠慮せずに
言ってくれれば直ぐに作りますからね」
こういう作業は召喚術師冥利に尽きますよ、と玲は自慢気にそう口にした。その後地上に戻った4人は、ラハニの離れに向かった。
ラハニの離れは作った当時のままの状態である。ちなみに、玲とかすみと神室霊華は、各自の離れのアレンジを時間を見ては行っている。そしてラハニの離れの前で、先ずは記念すべき第一歩をラハニに踏み出してもらおうということで、ラハニにお願いした。ラハニはドアノブに手をかけてゆっくりと回した。そして扉を開けて中を見た途端、暫し無言の状態となった。ラハニを除く3人は、「あれ?何か問題でもあったのか?」と心配になったが、そうではない。ラハニは感動で胸が一杯であったのだ。そして「マサカニホンデ、ユメガカナウトハ」とそう呟いた。そしてラハニは、その呟きの理由を3人に語って聞かせた。
幼少の頃のラハニの家庭は、ネイティブアメリカンと言うことで政府からの補助や支援があったものの、実は裕福とはかけ離れた家庭であった。しかも彼女の家族が住んでいた居留地には特例でカジノの併設が認められており、その影響で彼女の父親はギャンブル狂となってしまい、家計は常に火の車であった。そのため彼女の母親は離婚してラハニと彼女の姉弟を連れて出て行ったという。その後母親は職を転々としながら子供達の世話をするも、トレーラーハウスでの生活を余儀なくされ、年頃の子供たちに自分達の部屋を持たせられず、貧しさからなかなか脱することが出来なかった。そこでラハニは高校を卒業後、学費のかからないアメリカ陸軍の士官学校、通称ウェストポイントに入学することを決めた。ある意味、これが彼女の運命を決めたと言ってもいいだろう。そして将来は家族が暮らせる家を構えて皆で一緒に暮らせれたら、と願っていたのだった。だが、家族全員とはいかないものの、自分の家をここ日本で持てたことにラハニは感動したのだった。
「そっか、ラハニさんも大変だったんだね。
でもね、ここは誰に気を遣うことなく、
自由に使ってええねんで」
とかすみがラハニを思ってそう伝えたことに、ラハニは「アリガトウゴザイマス、カスミサン」と目に涙を浮かべながらお礼を述べた。そしてラハニの話を聞いた3人は、それぞれに何か思うところがあるのか、しんみりとした雰囲気が漂うものの、そんな空気を吹き飛ばすようにかすみが、
「そや、ラハニさん、
この後露天風呂にいくねんで。
楽しみやんか!」
と明るい声でそう口にした。そう、ラハニがこれは必要と言っていた温泉であり、しかも露天風呂である。4人は早速母屋に一度向かうことにした。
露天風呂へは母屋の奥から渡り廊下を渡って向かうことが出来る。本当は直接母屋から脱衣所と洗い場に行けるようにしたかったのだが、セキュリティ上の問題から止む無く別棟にしたのだった。尤も、神室霊華もラハニも「秘湯に向かう感じがして、私は好きですね」、「カクレユノカンジガシマス」と結構気に入っていた。そして脱衣所を抜けてその先の洗い場から外に出ると、の如く湯面から湯煙が立ち上る露天風呂を目にした。湯面に映る石灯籠の仄かな灯りが微かに揺れている。そして空を見上げると、もうじき日の出を迎える時間のためか東の空は少しずつ明るくなっているが、それでも差間見町ではお目にかかれない多くの星々が夜空に輝いている。その時ラハニが、
「ワタシ、セッカクダカラ、ハイリマス」
と言って早速脱衣所に向かって服を脱ぎだした。これには玲は慌てて、
「ラハニさん、こっちは男湯ですよ。
女性は隣です」
とラハニに説明した。ラハニはキョトンした表情をするも、急に顔を赤くして、「ゴ、ゴメンナサイ」と言いながら、隣の女性用の脱衣所に向かった。そして玲の後に付いてきた神室霊華は、
「私も折角なので、朝湯を頂きますね!」
と言ってから、ラハニの後を追って女性用の脱衣所に向かった。すると一人残されたかすみは
「しゃあないな、うちも入るけど、玲はあかんで!」
となぜか玲の入浴を拒否した。玲はこれには憮然とした表情をしつつ、
「かすみ、別に露天風呂自体ちゃんと
間を仕切っているから問題ないだろ」
と抗議した。ここの露天風呂は、石で囲まれた広い湯船の真ん中を板戸によって男女別々に仕切られている。ただし、この板戸は可動式で、女性側からのみ開け閉めできるようになっている。勿論、湯衣も常備されているので、裸のまま入ることはない。そしてかすみは、「ちっ、しゃあないな」との捨て台詞を残して、そのまま女性用の脱衣所に向かった。全くかすみには困ったものだが、このままここに居ても体が冷えるので、玲も朝湯を貰うことにした。
「あぁ~、気持ちいい~」
と思わずそんな声を漏らした玲だが、すると隣の湯船から
「何や、玲、君も入ったんか!」
と仕切り板越しに又もや玲に因縁をつけて来たのはかすみである。そんな時、神室霊華が
「折角なので、この仕切り板開けますね」
とかすみの返事を聞かずに仕切り板を開けてしまった。かすみは、「ちょっ、霊華さん、開けてどないすんねんな!」と抗議するが、神室霊華はニコニコしながら、
「どうせ私たちは一度混浴で入ってますからね」
と言ってかすみの抗議を無視した。かすみは憮然とするも、神室霊華にそこまで言われると仕方ないと首を横に振るが、それでも玲を睨み付けることは忘れない。だがそんな時も玲は冷静に
「かすみ、否だったら、先に出てもいいんだよ」
と挑発すると、かすみはすかさず、
「はぁ?カラスのレイちゃんの行水の
あんたに言われたくないわ!
出て行くのはあんたが先やねんけどな!」
と言いながら、玲に手ですくったお湯をかけた。玲もそれに応戦する形でかすみにお湯をかける。そして、まあ何時ものことながら、2人の小競り合いと言うか、ある意味じゃれ合いが始まった。神室霊華は、「またか」と言った表情で2人を眺めているが、ラハニは何が起きたのか把握しておらず、神室霊華に「トメナクテダイジョゥブカ?」と聞いてきた。そこで神室霊華は「ラハニさん、これは何時ものことなので大丈夫ですよ」とニコニコしながら答えたことで、ラハニも何やら納得したようだ。そしてお湯の掛け合いがある程度終わったところで、神室霊華は
「2人とも、そろそろ出ましょうか?」
と静かな口調で2人に伝えた。それを聞いた玲とかすみは、「やば、また怒らせたんか?」とビックリしたようで、そのまま大人しくなった。それから東の空が明るくなる様子を眺めていた4人は、露天風呂を出て母屋に向かった。