召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
神室霊華の異世界探求録2の巻: 異世界失踪事件 (後日談4)
「やっぱ、あっこの空間と似た感じやな。
どう思う霊華さん?」
と物部かすみは神室霊華に尋ねるが、ここに来る前の美土路神社は午後7時を回った頃で、師走のこの時期は既に外は真っ暗である。ところが、
「そうですね。この薄暗さは
あの時と同じ感じですね」
と言うように、黄昏時のような薄暗さが漂っていた。そしてかすみは早速空き部屋の窓を開けようとすると、
「あれ?窓は開くぞ! 何でや?」
と素っ頓狂な声を発した。この間の空間は建物から外に出ることが出来なかったのだが、ここではどうやら外に出られるようだ。そこで3人は玄関から外に出てみることにした。
「何だろう、神社はそのままの形で
この空間に存在しているけど...」
でも何か違和感があると最神玲は感じていた。そして玲が辺りを見回すと、神社の建物は全てそこに残っているのを確認した。更に自分達の住宅の東側に新しく出来た住宅もそのままそこに存在している。かすみが、
「とりあえす、どこまで行けるか
確認せーへんか?」
と言うことで、3人はそのまま境内に向かい、そこから石段を下りてみることにした。すると鳥居はその形を見て取れるのだが、その先は一切何も見えない。念のため、かすみが鳥居の外に向かって駆け出すが、鳥居から先に進めないようだ。
「やっぱ、何か大きさが決まってんねやろな」
と指摘するように、この謎の空間は有限なサイズを持つようだ。その時玲が「あっ!」と叫んだので、かすみと神室霊華はぎょっとして「れ、玲、何かあったんか?」と声を掛けた。すると、
「ここって、全然寒くないよ。
僕ら部屋着のまま出て来たけど、
今日は結構寒かったじゃない?」
とかすみにそう指摘した。かすみは自分の恰好を見返して、「ほ、ホンマや! こんな格好やと、ブルブル震えてるはずやで」と玲の言葉に同意した。
「そして、お腹も空かず、
喉も乾かなければ、この世界って...」
実は住む環境としては最適なのでしょうかね、などと神室霊華はそんな感想を口にした。ただし、
「自由に向こうの世界と
行き来できればやけどな!」
とかすみの指摘する通り、元の世界に戻れる保証があればであろう。その時またしても玲が
「なあ、かすみ、前行ったところは悪霊が出て、
それが美羽さんに憑りついたんだろ?」
じゃあここはどうなんだ?と疑問を呈した時、3人は直ぐに自分達の周りにバレル型の降霊召喚門を設置した。もっとも今の段階でこの世界に霊体が潜んでいるようには感じないのだが、油断は禁物である。その後3人は境内に戻って、現在建て直し中の拝殿と本殿を確認した。勿論そこには何もなく、一応本殿に安置されているご神体を確認すると、そこにご神体の短刀はあるものの、そこからご神体は召喚されない。つまり
「ここって、イミテーションの世界なんですね」
と神室霊華の指摘の通り、所謂模造品の世界なのである。その後3人は特に見る物もなく、また悪霊が潜んでいる様子も確認できないことから、霊界経由で元の世界に戻ることにした。
さて無事に美土路神社に戻って来た3人は、再び空き部屋にやって来て、問題のポータルを解除することにした。ただ残念ながら資料にはその点は何も書かれていない。そして
「そう言えば、あそこのポータルだっけ、
あれもそのままなんだよね」
と玲が指摘するように、そもそもの発端となったポータルは只今絶賛稼働中なのである。その時神室霊華が
「先程師匠が、この呪文は真言密教に
関係していると仰ってましたが」
もしかしてこの呪文の真逆のことを言えば解除できるのではないか、と言うことを2人に問い掛けた。玲はともかく、かすみは流石にその点に理解が及んでおらず、だが
「その可能性は十分ありそやな。
ほな、今度東洛の大学に行って
聞いて来るわ」
と言うことで、何かしらの方法をかすみに期待することにした。尤もそれよりも目の前のポータルを何とかする必要がある。ただ、この時玲が、ふと何気なく
「このポータルだけど、これって
向こうの世界でも設置できないのかな?」
と呟いた。するとかすみは、最初は首をげながら玲のことを不思議な物でも見るような表情をするも、直ぐにカッと目を見開いて
「そ、そや、そや、そや!
その可能性ありそうやん!!」
と興奮を隠しきれない様子で騒ぎ出した。神室霊華は玲の呟きに一瞬、動きを止めてしまったが、かすみの興奮を見て、その可能性をまだ検証していないことに気づき
「師匠、玲さん! 試す価値ありですね!!」
とこちらもかすみ同様興奮し出した。そこで玲とかすみは必要な道具を手にし、再び3人でポータルに入ることにした。
ポータルの中は先程来た時と何も変わらないままである。そして早速かすみは、空き部屋の中に必要な物を設置して独鈷杵に似た呪具を手にして呪文を唱えた。だが、
「ちぇっ、あかんやんか!
全く無駄骨っちゅうやつやで!」
とぼやき出した。だが玲は何かを感じたのか、かすみに
「かすみ、その呪具の反対側を使って
試したらどうだい?」
と提案した。そこでかすみは「仕方ねーな」とブツブツ文句を言いながらも玲の言いつけに従って呪文を唱えた。すると
「おーーーー、マジかーーー!
玲にしては珍しく、冴えとるやないか!」
と一応玲のことをディスりながら、先程のボヤキはどこへ行ったか?と言うくらいに興奮して叫び出した。だがまだこの先が何処に繋がっているかは分からないため、3人は無言のままお互いに頷き合って一緒にポータルに入って行った。
「ここって、元の空き部屋やけど...」
とかすみが呟くように3人は空き部屋の中に窓を背にして立っている。そして窓の方を振り向くと窓の外は真っ暗闇である。玲は念のため部屋の電気をつけようとスイッチに手を伸ばした。すると
「おー、電気がつくぞ。と言うことは...」
「元の世界に戻れたんだ!!」と3人はそれぞれに叫び声を上げた。どうやらあのポータルは両方の世界を行き来できるようになっており、しかもそのカギは独鈷杵に似た呪具の非対称性にあった。そして同じ呪文で違う側を使うことでこちらとあちらの世界を自由に行き来できるように機能するのだった。念のため先程向こうの世界に行くときに使ったポータルを調べると、空き部屋から綺麗に消えていた。
「と言うことは、向こうの世界ではまだ
ポータルが存在している
ということなんでしょうかね...」
と神室霊華が指摘するように、恐らくそうなっているのだろう。
「しかし何とも凄い術だな、これ」
と玲は腕組みをしながら頷いて感心している。
ところで、神室霊華には一つの疑問がまだ残ったままである。なぜ桜子は悪霊に憑りつかれてしまったのか?この問いに関して、玲は
「恐らくこのポータルを設置した場所が
悪かったんじゃないかな」
と指摘した。つまり、このポータルはそれを設置した場所をそのままコピーする機能を持つようだが、恐らくコピーする範囲内の物全てをコピーするようである。そのため、その中に悪霊が含まれていると、それもそのままコピーしてしまうのではないか、と玲は推測した。もしそうであれば、自分達の場合は悪霊が全く存在せず、桜子の場合は心霊スポットに設置したため、悪霊もコピーしてしまい、その悪霊に憑りつかれたということで、これで説明がつく。後はこのポータルの目的であろうか。
「先程、神室さんが
『住む環境としてはいいですね』
と言う感想を口にしましたが、
多分それが目的じゃないかなと思うんだけど」
と玲は一つの可能性に言及した。それは仏教との関係性である。つまり、向こうの世界は空腹も喉の渇きもなく、しかも時間の概念がない全く無音の世界である。そのような環境で僧侶が修業を続けることが出来れば、仏教における「悟り」を開くことが出来ると考えても不思議ではないと言うのだ。
「そやな、何かに集中して
取り組みたいときなんか、
あっこの世界はめっちゃ便利やねんな!」
そして桜子にこのポータルを紹介した人物は、あっちの世界で精神修養を積めば自ずと目的に達するのでは、などと考えて紹介したのだろうか。残念ながらそれは誰にも分からない。
その後玲は、廃旅館に残ったままのポータルの除去をかすみにお願いすることにした。勿論かすみは、
「はぁ?玲がやったらええんちゃう?」
とぼやくが、玲はわざとらしく頭を搔きながら、
「ゴメン、かすみ。僕は創成召喚が駄目なんで」
何時になったら必要な道具が出来るか分からないし、と先程のかすみからの嫌味を逆手にとって反撃した。これにはかすみも
くそっ、玲の奴、めっちゃむかつく!
と腹を立てるが、そもそも自分が玲を挑発したツケが回って来たことを自覚したため、渋々廃旅館に向かったのだった。