召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
美少女降霊術師の心霊事件簿10: 妖怪との遭遇 (第1幕)
美土路神社の初詣での参拝客の波が落ち着いた1月の中頃のある日、日中の陽ざしの暖かさに誘われて、物部かすみは社務所にてついうとうとと昼寝をしそうになった。だが今年は残念ながら彼女の思惑通りにはいきそうにない。それでも、たまに参拝客への対応が無くなる時間帯があり、そんな時に油断すると一気に眠気に襲われてしまう。どうしてもかすみは、ここで昼寝しないといけないように出来てしまったようなのだ。だがそんな時、かすみの鞄の中から「♪ピローン」とメロディーが鳴った。どうやら誰かからのLINEが届いたようだ。念のため誰からのLINEか確認すると、幼少の頃から差間見町に来ては一緒に遊んでいた相田桃からであった。と言うことはまたあの件か、とかすみは苦笑せずにはいられない。それは事故物件対応、正確にはルームロンダリングである。まあ、かすみとしてはちょっとした小遣い稼ぎの感覚なので、余り事を構えたりはしないのだが。
ところで、LINEの送り主である相田桃は大阪の不動産会社に勤めており、今はなぜか事故物件対応のエキスパートと呼ばれるまで社内での評価が高いのだという。それも、かすみが除霊を兼ねて1週間宿泊してくれるお陰なのだが。ただ、相田桃からの依頼は一昨年は数件あったが、昨年は1件だけであった。まあ、そんなに事故物件だらけと言うことは無いと思うので、この数は妥当なのかもしれない。そんな相田桃からの久しぶりの依頼のようなので、かすみは[仕事中のため午後5時過ぎに連絡します]とLINEの返事を送った。”しかしナイスタイミングだな”、とはかすみの心の中の呟きであるが、もう少しで寝てしまう所だったのを何とか切り抜けた、と言いたかったようだ。
さて、午後5時になったので、今日の料理番はかすみのため、かすみは先に帰宅することにした。今晩はもつ鍋にする予定であり、食材は既に買い込んで冷蔵庫に仕舞われている。後は適当にニラやキャベツを切ってもつと一緒に鍋に入れて「もつ鍋の素」と言う出来合いの出汁と一緒に煮込むだけとなったところで、昼間の相田桃からのLINEを思い出し、早速部屋からスマホを持ってきて相田桃に電話で用件を尋ねることにした。
[ごめんよ、桃。今大丈夫なん?]
[あー、かすみ、うん、今は大丈夫よ。
それでねLINEした件なんだけど]
と言って相田桃がかすみに依頼したい件は次のような事であった。
京都府内のある山村で古民家が売りに出されている。相田桃の勤める不動産会社では古民家も扱っているので、売買に関しては何も問題はない。ところが、その古民家の売主は、かなり強気の値段設定をしているのだという。具体的には、周辺にある同じような古民家の相場の数倍の売り値を設定しているのだ。一体その売主は何を持って強気の値段設定にしているのか?
[それが、その古民家にはが
住んでいるんだって]
どうやら座敷童子が住んでいることから、そこに住むと金持ちになれて、少し高い買い物でも直ぐに元が取れるぞ、と言う魂胆があるようなのだ。だがこの時、誰しもが思う疑問をかすみは相田桃に投げかけた。
[なぁ、桃。そんな金持ちになれる家を
何でその人手放すん?]
[そこなんだけど、どうも金に困っていて
今直ぐに現金が欲しいみたいなんよ]
それで、そんな美味しい物件であってもそのまま手元に置かず、高値で売りつけようということなのか、とかすみは納得した。すると幾らの値段をふっかけて来たのか気になったので尋ねた。すると
[土地と建物合わせて四千万円だって]
と相田桃に言われても、その辺の相場が分からない。だが、同じ地区にある別の古民家は土地と建物合わせて五百万円~一千万円だという。となると、かなりふっかけてきているようだ。ただ、
[もしね、本当に座敷童子がいたとしたら...]
四千万円でも十分に元が取れるそうだ。それこそ、座敷童子の出る民宿と言う謳い文句で宣伝すれば、ほぼ連日予約で埋まることは確実である。そうなれば、恐らく五、六千万円でも買い手がつくのではと、取らぬ狸の皮算用をしていると言うのである。だが
[もしいなかった場合はね、
リノベーション代含めても
精々売値は一千五百万円が限度みたい]
そうなると大幅な赤字となる。つまり、この物件を相田桃の勤める不動産屋が言い値で買うかどうかは、売り上げに少なからぬ影響が出るようなのだ。そこで事前に本当にそこに座敷童子が住んでいるのかを相田桃が懇意にしている霊能力者に確認して欲しいという依頼なのであった。
ところで、「座敷童子って確か妖怪だったよな」と言うことを、かすみは子供の頃に見ていた目玉の親父がでるアニメのことを思い出しながら、そう呟いていた。だとすると、果たしてうちらの召喚術が効くのだろうか?こればかりは何とも分からないため、最神玲に聞いてみることにした。そこで相田桃には一度この件は保留にして貰い、改めて出来るだけ直ぐに連絡することを伝えて電話を切った。そして早速玲の部屋に行き、玲に今聞いたことを伝えた。すると、
「うーん、妖怪っていうけど、
そもそも妖怪って何なんだい?」
とかすみに対し疑問を投げ掛けた。かすみはと言うと「そこからかい!」とツッコミそうになったが、いざ自分でも妖怪の定義を考えた時、よく分からないことに気づいた。子供の頃は、何やら怖い存在だけど、意外と憎めない、場合によってはそれこそオモロイ連中の集まりという印象を持っていた。では、自分達が扱う幽霊などの霊体と何が違うのかと言われると、そこはよく分からない。もしかして、幽霊の別の側面なのだろうか?それとも、幽霊とは全く異なる第三の霊体みたいなことなのだろうか?そんな疑問がかすみの中にも湧き上がって来たようで、
「せやな、改めて考えるとよう分からん。
ホンマ、妖怪ってなんやろな?」
まっ、幽霊の仲間やったら降霊召喚門で確保できるやろから、そん時にでも聞いてみるか、とかなりお気楽なことを言いながら、キッチンに戻って行った。その後、神室霊華が何時もの様にやって来たので、3人で早速夕飯の食卓を囲むことにした。
「なあ、霊華さん。さっきな、
玲にも聞かれてんけど、
妖怪って何なん?」
とかすみはいきなり神室霊華にそんな質問を投げかけた。いきなり妖怪の話をされるとは思っても見なかった神室霊華としては、
「すいません、師匠。
私にもよく分かりませんが...」
どうしてその話が出て来たのかについてかすみに尋ねた。かすみは相変わらず前半部分を素っ飛ばした状態で神室霊華に尋ねたため、「あっちゃー、またやってしもうた」と額に手を当てながらそう呟いた。そこで、差間見町に遊びに来ていた頃の幼馴染で、今は大阪の不動産会社に勤める親友から、今日の夕方に聞いた話を伝えた。すると神室霊華は、手にしていた取皿をテーブルに置いてから
「座敷童子なら私も聞いたことはあります。
確か東北の方に座敷童子が出ることで
有名な宿がありましたよね」
と、何やら思い出したようにかすみにそう伝えた。そして
「そう言えば、座敷童子って
子供にしか見えないとか、
そんな言い伝えもあったりしたような...」
と天井を見上げながら、ポツリとそんなことを口にした。
「うーん、もし子供にしか見えないんやったら...」
うちはダメやんかーとかすみは叫び出した。だがその言葉を聞いていた玲は”いやいや、かすみならバッチリ見えるよ”と心の中でツッコミを入れていたのだが、これは絶対口に出来ない。もし言おうものなら「はぁ?玲さん、今何て仰ったんやろか?」とマキザッパを召喚して「うちがお子ちゃまやから見える、言うてんのかなー」と言いながら玲をシバキにかかっていただろう。だが、どうやら玲の僅かな態度か表情の変化に気づいたかすみは早速、
「おや~?玲さん、何か言いたそうやな~?」
と黙々ともつを食べ続ける玲の顔を覗き込んできた。「もしかして、うちはおこちゃまやから、黙ってても見えるんちゃう、とでも思ってんのかな~?」と、まさか自分の心の中を読み取られたのかと思いたくなるが、絶対そんな表情をしてはダメだと、玲は額に汗を搔きながらも必死に首を左右に振り続けた。そんな2人を楽しそうに眺めていた神室霊華は、どうやら玲さんが危なそうとの気配を感じて、助け船を出すことにした。
「そう言えば師匠、妖怪のことで
少し思い出したことがあるんですが...」
と言ってかすみに語ったのは、昔読んだ有名な作家の小説にあった妖怪に関する解説であった。
「勿論、小説なので
フィクションではありますが、
妖怪って人が認識した時に
初めて現れるという解釈がされてました」
つまりどういうことかと言うと、何か突拍子もないことが起きたりした時、「それは○○の仕業だ」と口にしたり感じたりした途端、そこに妖怪として現れるという解釈である。尤も分かり易い例えとして、りと言う現象がある。これは建物が突然「ミシッ」とか「バキッ」と音を立てる現象である。この音の正体は、木造住宅においては、木材が湿気を吸収したり放出したりするときに伸縮し、それが接合部でられたりして発生することが分かっている。ところが、その現象を知らない昔の人達は、急に家の中に「ミシッ」と言う音がした時、「あっ、家鳴りが現れた!」と思う訳で、そう認識した途端、そこに家鳴りと言う妖怪が現れるということである。
「要するにですね、師匠、
部屋にあった子供のおもちゃが
本当は風で勝手に動いただけなのに、
それに対し『あっ、座敷童子だ!』と
感じた途端、そこに座敷童子が現れる、
というような解釈ですね」
何やら、妖怪って人が作っているような感じを受けますが、と神室霊華は話を締め括った。その時、玲が不思議そうな表情をしながら、もつを摘まむ手を休めて誰にともなくこう呟いた。
「それって、創成召喚みたいだね」
「ん?玲、今何て言ったん?
確か創成召喚とか...」
と確認しようとしたかすみは、はっとした。そして神室霊華は、ニラを摘まんでいた手が止まってしまった。
「えっ、えー!! もしそやったら、
どっかに召喚門があるちゅうことか?」
「そ、そんなこと、あるんでしょうか?」
とかすみと神室霊華は驚いた表情をしながらお互い見つめ合ってそんなことを口にした。尤もそこには何の根拠もない。玲も軽はずみでついそんなことを言ってしまって少し後悔するが、ただ、
「創成召喚の基本は、
その人の想像力と言うか、
インスピレーションだからね」
その時に自分が想像する妖怪を思い浮かべたら、多分それが出てきてもおかしくないかも、と言うのだ。だが
「ほな、想像力のない玲だと、
何が出てくんねんやろな~」
とかすみは玲の顔を見ながらニヤニヤし出した。これには玲は何も言い返すことが出来ず、下を向いて「分かりません」としか答えられなかった。もしかしたら、凄いグロテスクな座敷童子がでたりしてな、とかすみは1人で盛り上がるのだった。何れにしてもここで議論してもあまり意味が無いため、とりあえずかすみは、相田桃に承諾することをLINEで伝えた。そして相田桃から日時と場所に関する連絡を受けて、かすみは現地に向かうのだった。