召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
物部かすみ、昔の相方と再会する (前編)
最神玲と物部かすみが、サモネル教団との死闘を繰り広げる少し前の2月中旬、美土路神社の本殿の傍に植えられている数本の梅の木が例年よりも早く赤い花を咲かせた。丁度この時期は、例年であれば寒さがピークとなるのだが、異常気象からなのか、地球温暖化の影響なのか、春の訪れを感じるくらいに好天に恵まれてポカポカした陽気に包まれている。そんな季節外れの陽気に誘われた訳ではないだろうが、多くの参拝客がここを訪れその梅の木を写真に納めたりして間近の春の訪れを感じている。そしてこういう陽気に誘われて、あの人も社務所にて長い航海に旅立とうとしているかのように見える。だが残念ながら、そんなチャンスは二度と訪れることは無く、「御朱印帳への記帳をお願いします」と社務所にやって来る参拝客の相手をしなくてはならなくなる。そしてその後は、自宅に戻って何時もの如く愚痴を零すのだった。
「もー、ええ加減にせぇーよ!
人多過ぎやろ! しかも最近は、
何や、外国人も多なってるしやな!」
とかすみはリビングのソファーに寝そべりなりながら何時もの愚痴を零し出す。だがかすみの指摘も当然で、ここ最近と言うか、正確には昨年の秋位から、外国人観光客が目立つようになってきた。まあ、要するにインバウンドの影響なのだが、しかし文化も宗教観も異なるこの神社に来ても何も見る物がないと思うのだが。
そんなかすみの愚痴を聞きながら、玲は黙々と夕飯の準備を進めている。今晩のメニューはオムライスとシーザーサラダである。玲も何だかんだと料理の腕前が上がってきており、オムライスに至っては溶いた卵液を半熟状にして、チキンライスをその上に載せて包み込み、綺麗なオムライスを作るという技を習得していた。玲も一人で下宿生活していた時は全く料理に感心を持たなかったが、こうしてかすみと共同生活するにつれ、いつの間にか料理の腕前が向上していたのだ。玲と言うよりも、その中身のカーンフェルトからすると、まさか異世界で料理の腕前が上がるとは夢にも思っていないことであろう。そして玲が神室霊華の分も含めて3人分の準備が出来た時、神室霊華が「師匠、玲さん、すいません遅くなりました」と謝りながら、何時もの様にやって来た。神室霊華にしては珍しく今日は少し遅い時間に来たのだが、どうやら仕事が立て込んでいたようで、少しお疲れ気味だ。
「霊華さん、そんな気にすることないで!
自分のペースで来ればええねんからな」
とかすみは神室霊華を心配してそう声を掛けた。かすみの何気ない心配りに、神室霊華は何時も感謝していた。
「さて、神室さんも来たことだし、
今晩のメニューはシンプルだけど、
早速食べようか」
と言うことで、オムライスとシーザーサラダによる夕飯となった。そして何時もはかすみの愚痴と言うかボヤキが中心となるのだが、今日は神室霊華が色々とボヤキたいようで、
「師匠、聞いてくださいよ!
今日の依頼なんですけどね...」
:
:
「そりゃ、大変やったね、霊華さん。
まあ、元はうちが蒔いた種やから、
うちに回してもらってもええねんけどな」
などとかすみと2人で話し込んでいた。どうやら、神室霊華の元には、相変わらず絵画の鑑定依頼やら行方不明者の捜索依頼がやって来るようで、幾ら払ってもいいから直ぐに探してくれ、と言う無茶な要求をする顧客への対応に苦慮しているというのだ。
「でもなー、そう言うのに限ってやな、
もし見つかりませんでした、何て言うたら、
また酷いこと言い出しよるねんなー」
だから気ぃつけなあかんよな、とかすみのアドバイスが続く。そんな時、玲の部屋から何やら音が聞こえて来た。どうやら誰かが玲のスマホに電話をしているようだ。玲は直ぐに部屋に向かいスマホを手にして戻って来た。そして再びテーブルに着いたところで
[もしもし、佐伯さんだね。元気にしてた?]
と言いながらスピーカーモードに切り替えた。電話の主は東洛総合大学心霊サークルの現部長である佐伯えりからであった。
[玲先輩、お久しぶりです。
物部先輩もそこにおられるんですか?]
とかすみのことを聞いてきたので、玲はテーブルの真ん中にスマホを置いた。するとかすみが
[何や、佐伯か。どないしたん?]
とぶっきらぼうに答えた。すると、
[あっ物部先輩、ご無沙汰です。
相変わらず玲先輩と同棲中なんですね]
とかすみは何時ものジャブを浴びせられた。ここであたふたするかすみをうのがお約束なのだが、今日のかすみは何時もとはかなり違った。
[あー、はいはい。
違う言うても通じへん君には 何も言いません。
それよか何や佐伯
また新しい彼氏見つけたけど
その彼氏が霊に憑りつかれたんか?]
と過去の事件を引き合いに出して応酬し出した。こういう時のかすみは相手の更に上を行き、その後は無双状態に移行すると言っても過言ではない。すると、暫しの沈黙の後に
[そ、そんなことないですよ、物部先輩]
と予期せぬ反撃を食らって茫然としていた感じで佐伯えりが何とかそう答えた。それよりも、このままでは何時もの如く話が進まないので、玲が
[ところで佐伯さん
今日の電話の用件は何だい?]
と尋ねることにした。そして佐伯えりから語られたのが次のような事であった。
今年も心霊サークルでは年度末に心霊動画コンテストを開催することになった。昨年から始まったこの企画だが、折角何かしらの怪異を収めた動画を日の目を見ないままにしておくのは勿体ないということもあって、昨年の部長の竹内斗真が中心となって企画した。ただし、実際はと言うと、玲とかすみの情報をある国に売ったことで手に入ったお金を皆に還元しようとして始まった企画であった。そのことをかすみが竹内から(強引に)聞き出したのだが、その企画が今年もあるというのだ。そして開催日は3月初旬の平日になるという。ただし、昨年はたまたまコンテストの賞金を出せたのだが、今年は特にそのような賞金の出所が無いはず。一体どこから賞金を捻出したのかをかすみが尋ねると、佐伯えりは、
[まあちょっとですね
こちらにも色々ありまして]
と言ってお茶を濁すが、そこを聞き出せるのがかすみである。そしてかすみが聞きだした所では、
[な、なんなん、それ。
ほぼあっこが主催ちゅうか
スポンサーのコンテストやんか!]
と指摘するのだが、かすみの言うあっことは、
[はい、呪いの動画制作委員会さんと
ジーエックスさんがスポンサーなんです]
と言うのだ。更に、
[実はもう1件新たに加わりまして...]
と佐伯えりが言うのは、最近特に心霊系動画で注目を集めている、なかなか鋭い角度から切り込むことで話題の
[ジー・プロジェクトさんも
新たに加わることになりました]
と言うのだ。ちなみに名前の「ジー」は、あの黒い厄介者のジー(G)ではなく、幽霊の英語の頭文字のジーから来ている。そして何時もの如く、玲はそんな事情は何も知らない。念のため一緒に話を聞いている神室霊華にもそっと尋ねるが、彼女も首を横に振っただけである。自分だけが知らない訳ではなかったことに、玲は安堵した。そしてかすみは、
[そっか、あっこも遂に動き出したんか...]
と何やら感慨深げにそう呟いた。聞くところによると、例えば同じ場所で発生する心霊現象を多角的な視点から扱うことで1つのテーマにまとめるなどの斬新な取り組みをしている所だという。そしてジー・プロジェクトが加わったということは、ジーエックスと呪いの動画制作委員会の大成功が影響していることは間違いない。
“いやいや、待てよ!このままやったら、
日本中の心霊動画の制作会社が
参加して来るんちゃう?”
とかすみは思うのだが、それも時間の問題であった。そしてジー・プロジェクトがスポンサーになったということは、
[えー、まあ、恐らく夏合宿にも
参加されると思いますね]
ははは、と佐伯えりは笑いながらそう答えた。佐伯えりとしては、その時には卒業しているので本人のり知らないことであるのだが。一方のかすみは、今年の夏合宿は凄いことになりそうだが、それ以上に来年度の心霊サークルは凄い規模になりそうな予感がしてくるのだった。
さて前置きが長くなったが、佐伯えりからの話と言うのは、まあ何となく予想がつく通り、その動画コンテストの審査員をお願いしたいということであった。ちなみに昨年は、そのために100本以上の動画を見る羽目になった玲とかすみ、そして神室霊華の3人であったが、今年はと言うと
[今年は1人1本に限定しております]
と佐伯えりが伝えて来た。それでも60本の動画をチェックするのだから、なかなかに大変な作業である。そして
[それとですね、先輩方にはその動画の
ランキングをお願いしたいのですが]
と言うまた訳の分からないお願いをされてしまった。どういう事かと言うと、最恐の動画を一位とし、以下怖いもの順にランクをつけるということだ。そのときかすみが
[ほな、最も怖ないニセ動画ランキングも
あったらおもろいんちゃう?]
と謎の提案をしてきた。佐伯えりは何やら黙り込んでしまった。どうやらかすみの謎提案への扱いに困っているようだ。その時玲が
「かすみ、そんなことしたら
その人を吊し上げることになって
大問題になるよ」
と忠告した。確かに言われるとそうなるため、かすみは「ちっ、しゃあないな」と舌打ちしてその謎提案を取り下げた。それを聞いてホッとしたのか、電話口の佐伯えりから
[色々ご提案頂き有難うございます]
と無難な言葉を返してきた。後はコンテストの日時と場所を確認し、そこで電話を切った。
「全く、面倒って言ったら無いよな」
とかすみのボヤキが始まった。更に
「スポンサーがつくんやったら、
うちらいらへんとちゃう?
いや、ちゃうな、うちらにも
還元してもらわへんとな!」
とぼやくかすみだが、その実玲もかすみも彼らに何か請求することは無く、それよりも困っていたらつい助けてしまう。要するに何時もタダ働きをしてしまうのであった。