召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
物部かすみ、緊急事態でパニクる
今日2月1日、物部かすみは朝から突然の凶報にパニクっている。何が彼女を尋常ならざる状態にさせたのか?それは彼女の就職先に問題が発生したためである。かすみは、ある地方の優良企業に親の伝手で就職内定が決まっていた。その企業は、半導体関係の装置を製造する従業員数百人程の、いわゆる中企業と呼ばれる規模の会社である。そんな優良企業で何が発生したのか?実は、所謂粉飾決済が露呈してしまい、それが元で経営不振に陥る事態が発生したのであった。運よく、半導体需要の高まりから製造する装置の需要も多くあり、本業の収益自体は全く問題ない。では何が経営不振を招いたのか?それは、この企業のオーナー一族が不動産やら何やら本業とは関係ないところにも投資しており、それが焦げ付いたのが原因。しかもその焦げ付き分を本業の儲けでカバーしようとしたところで会計監査が入り露呈する始末。結果、本業の半導体装置の製造部門は別の企業に買収されたが、その影響で、社員のリストラが発生。そして、4月に入社を予定していた大学新卒者もその対象となり、結果採用自体が見送りとなった、これがかすみをパニックに陥らせた元凶の全てである。
この一連のニュースは、その前週から短いながらも全国ネットで報道されたりしていたが、かすみも半ば心配になりながらも、本業とは関係なさそうと安心していた。ところが、従業員のリストラから新卒者の採用自体が見送られるに至り、ついにパニックとなって、今呆然としながらも、なぜか玲の下宿の玄関に居るのである。いや、佇んでいるのが正解か。かすみの今の姿、コートのボタンを掛け違っている状態を見ると、如何に今のかすみが今まで見たこともない腑抜けた状態にあるかを物語っている。そんなかすみを見て、玲も心配するのだが、どう声を掛けるべきか迷ってしまう。
「かすみ、とにかくこっちに来て、
そこに座ったら?」
最神玲に言われるがままに、ダイニングテーブルの横の椅子に腰かけた。そして、落ち着かせるために、少しめに淹れたお茶をかすみの前に置いた。しかし、よくこんな放心状態でここにこれたなかすみ、と思わずにいられないのだが、何とか湯呑に口を付けてお茶を飲んでくれたようだ。そして、
「うわー、就職どうしよう、
もうあかん、お終いだーー」
と泣き喚いてしまう。そして、り泣いて、もう涙が枯れた頃合いを見て、玲が
「かすみ、もしかして、例の報道か?」
と尋ねたのである。それを切っ掛けに、今度は今の心境やら不安を玲にぶちまけたのであった。
「そうか、うーん、ごめん、
正直僕にはどうアドバイスすれば
良いのか分からないけど...
ところでさ、かすみ、
何かやりたいこととか無いの?」
と聞かれて、かすみは、キョトンとする。玲に色々とぶちまけて、少し気持ちも落ち着いたので、そんなリアクションが出来るようになってはいたのだが、思いもよらぬ玲からの問い掛けであった。
「ごめん、まだ、何も思いつかない」
「そっか、なら、僕と一緒にやらない、霊媒師」
またまた、キョトンな表情となるかすみであるが、今度のキョトンは、こいつ何言ってるんだ、一発しばこうかという不穏な状況へと発展する。漸く、何時ものかすみに戻りつつある証拠であった。
「はあ?何で、あんたと一緒に
霊媒師せなあかんねんな。
全く、少しはうちのことを心配せえよ!」
といつもの怒りモードのかすみである。玲は、漸く何時ものかすみに戻ったと内心ホッとするものの、うーん、やっぱり何か地雷踏んだのか、と不安になる有様。
「いやいや、心配してるって。
だから、少しは安心材料をと思って
言っただけなんだけどな」
かすみも、本気で怒っているのではなく、玲の優しさに対する照れ隠しなのだが、いかんせん、どうしても玲に対しては彼への甘えからなのか、こんな感じで冷たく出てしまう習慣になっている。
「もう、分かりました。
全く、人を何だと思ってるんだか」
玲のお陰で漸く冷静さを取り戻したかすみ。しかし、玲も本気で霊媒師するつもりなのか?世の中、霊媒師やら霊能力者やらうじゃうじゃいるけど、本当に見えるのか、本物なのかどうかは誰にも分らない。殆どは自称であり、その能力を客観的に判定できる人はこの世には存在しない。それなら、自分達が名乗ることに特に問題はないのだし、玲もかすみも実際に目にすることが出来るのであるが、結局はそんな自称の訳の分からない連中と十把一絡げに扱われるのには釈然としないものがある。そんな思いを玲に伝えた時、思わぬ返事が返って来た。
「ん?霊なら見ることは出来るけどね」
ん?玲さん、今なんて仰ったんですか?霊を見ることが出来ると言うのは、我々のようにその能力に目覚めたからとかの意味ではなく、文字通り「誰でも」見ることが出来るということですか?
「うん、そういう事。
サモナルドでは、別に霊体を見て
嫌悪感とか恐怖心とか抱く人は殆どいなくて、
むしろ霊体が見えることは喜ばれたりするんだ。
例えばさ、自分の近しい人が亡くなって、
その人の魂に会いたいとなったとき、
その霊体が自分の目で見えて
会話出来たら安心するじゃない。
だから、そういう人達のための道具があるんだよ」
と言って、ドラ〇もんでないが、召喚術で召喚したのが、いまテーブルの上に置かれた眼鏡。どう見ても普通の眼鏡なのだが、ただし、片方にしかレンズが入ってない。これは何で?
「あー、これは自分が本当に見えているのかを
確認したい人がどうしても出てくるから、そのため。
一応、両目共レンズありもあるけど、どうする?」
とりあえず、目の前に置かれている眼鏡をかけてみることにしたかすみである。勿論、かすみ自身には不要なのだが、それでもかけてみたところ、特に何か見えることは無い。当然か。うーん、何か玲に担がれてる感がしないでもないかすみであるのだが。
「でも、そうか、降霊術とか除霊の時に
これを渡して見てもらえば、
どうなったかを確認することは出来るんだね?」
「まあ、そういうことかな。
多分地球の人はまず信じそうにないけどね。はは」
玲の笑いは、諦めとも達観ともとれそうだが、かすみからすると、これはそれなりに使えそうに思えるのであった。そうなると、
「そうか、それなら、何か霊媒師も面白そうだね。
自分は信じないぞ、と言う人がこの眼鏡をかけて、
どうとらえるかを見るのも、何か面白そう。
間違いなく、大抵の人はインチキだーと
クレームしてくるだろうけどね。
でも、もし除霊とかの料金を数万円程度にしたら、
どうなんだろう」
おや?かすみさん、何か乗り気になってませんか?と少しおどけた雰囲気で問いかける玲である。
そして、この会話から暫くして、二人は「M M超心理学研究所」なる怪しい(?)組織を立ち上げたのである。ちなみに、両方のMはかすみの苗字(Monobe)と玲の苗字(Mokami)のイニシャルから来るのであるが、どちらが先かはその時々で決まるものとした。本当はKRとかRK(Kはかすみのイニシャル、Rは玲のイニシャル)はどうかとお互い提案したものの、どっちも譲れないことになったため、どうとでも判断できるM Mに決まったのである。決してアメリカのチョコレート会社とは関係ないことだけは、ここに述べておく。