召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
心霊サークル夏合宿: 日本海恐怖紀行 (後日談2)
東京警視庁の特命捜査対策室、通称「特捜対策室」の責任者である千歳真希警部補は、今回の件の裏で物部かすみ率いるM Mが関係していたことが分かったので、詳細については彼女らに直接訪ねた方が早いと思い、早速夕方になって電話することにした。そして当事者であるかすみからの協力を得ることが出来、後日警視庁にて詳細な状況を説明してもらえることになった。
その電話から2日後、かすみと神室霊華は千歳警部補の案内で警視庁内の会議室にやって来たが、そこではあの捜査第一課長の内藤警視正からの出迎えを受けた。
「あれ、おっちゃん、仕事ええんか?」
とかすみは再び警視庁の捜査第一課長を「おっちゃん」呼ばわりし出した。だが当の内藤第一課長も別段気にすることは無く、逆に
「お嬢ちゃんたちが何やら
面白そうな事をする言うんで、
仕事を放って来てしもうたわ。ははは」
と笑いながらそう答えた。神室霊華は2人の言動に苦笑いを浮かべているが、こんなことで無駄な時間を過ごす訳にはいかないと思い、かすみの耳元で「師匠、そろそろ始めましょうか?」と囁いた。かすみも、
「そやった。それをしに来たんを忘れるとこやった!」
と思い出しながら、早速会議室内でポータルの設置準備を始めた。そして呪文を唱えてを振るとその場にポータルが完成した。だが残念ながら肉眼ではその存在が分からないため、千歳警部補に持って来てもらっているビデオカメラを暗視モードにして確認してもらった。すると、
「こ、こ、これが話にあったポータルですか?」
と目の前に何やら空間の歪みが現れたことに動揺しながら、そう尋ねた。隣にいた内藤第一課長もビデオカメラのモニターを見た途端、「ん?何やこれ?」と呟いた。どうやら無事にできたようなので、かすみが質問に答える代わりに
「ほな、入りましょか?」
と言いながら、道具を持って神室霊華と共にそのポータルに入った。目の前からかすみと神室霊華が消えたことに警察官の2人は心底驚愕していたが、直ぐに冷静さを取り戻して2人の後に付いて入って行った。
「何や、急に暗くなったな。この部屋?」
と内藤第一課長が先ず第一声を上げた。元の世界では会議室の電気で部屋が明るかったのだが、この空間内の部屋は室内の電気が消え、黄昏時を迎えたような薄暗さが漂っていた。
「これがな、ポータル内の世界やねん」
とかすみが説明しつつ、他の部屋に移動することを提案した。そこで内藤第一課長が、捜査第一課に向かうことを提案したので彼の後について行くことにした。その際、
「物部さん、ここって誰もいないんですか?」
と千歳警部補は不安げな表情でかすみにそう尋ねた。かすみは、
「だーれもおらんで。ただな、
人以外の者は全て元の世界の物が
コピーされてんねんけどな」
と答えた。そして捜査第一課の部屋にやって来たこの部屋の主である内藤第一課長は、信じられない光景を目にしたように口をあんぐりと開けた状態で茫然と佇んでいた。暫くしてから漸くポツリと
「こんな、誰もおらへん静かな一課は
有り得へんで!!」
「わしの人生でこんなん経験したことないわ」と誰にともなくそう呟いた。そして直ぐに自分のデスクに向かうと
「こ、この資料は、ついさっきまで見ていた奴やで!」
と急に大声でそう指摘し出した。するとかすみが
「多分やけど、ポータルが設置された時点の情報が
全てコピーされたんちゃうかと思うねんな」
と補足説明を加えた。念のため、机の上にあるノートパソコンの電源を入れても全く起動しない。あくまでも器その物がコピーされただけで、機能までは対応外であったのだ。それから一通り館内を見て周るが、誰一人そこにいないことを確認した。それから先程の会議室に戻り、かすみが帰るためのポータルを作り、そこを通り抜けて元の世界に戻って来た。
その後かすみから、このポータルの特徴の説明が内藤第一課長と千歳警部補に対し行われた。2人とも腕組みをしたまま目を瞑って考えている。自分達の常識で計り知れない現象を目の当たりにしたからであるが、それよりも警察としてはこれが犯罪に利用されることに懸念を抱いたようで、
「物部さん、例えばホシがそこに逃げ込んだ場合、
もし向こう側であのポータルか、
あれを設置したらこちらからは何もでけへん
ということやな?」
「そうなりますね。ポータルは一方通行やし、
別のポータルを設置しても、
それは犯人が設置したポータルとは
別個のもんになるからね」
そう、このポータルに犯人が逃げ込んで鍵をかけると、そこには誰も入れなくなるのだ。一方、
「物部さん、例えば警官と犯人の間に
あのポータルがあったりして、
警官が犯人を追うために
そこにうっかり入ったりすると、
その警官はこちらの世界に
戻れなくなりますよね?」
「うん、そやね。千歳さんの懸念は
有り得ると思うよ」
犯人からすると、そこに追っ手をおびき寄せて撒く事に利用できることは十分に考えられる。そしてかすみはある問題を指摘した。それは
「このポータルの作り方やねんけど、
10年以上前にネットで公開されてたらしいんよ」
と2人の警察官が驚く事をかすみは伝えた。つまり、このポータルの作り方は、既に世間にばら撒かれているということである。
「ほ、ほな、わしらの懸念していることは、
既に起きてるかも知れへん言うことでっか?」
と目を丸くしながら内藤第一課長はかすみに畳みかけるように質問した。かすみとしては果たしてそのような問題が既に起きているのかについて明確な答えを持っていない。ただし、
「犯人が隠れるために使った場合は
どないしようもないけど、
それ以外であれば見つけることは出来ると思いますよ。
そん時は、そこを捜索してから潰す、
と言うことしか対応でけへんと思いますけど...」
と答えるが、その後は尻すぼみになってしまった。そもそも簡単に見つかる代物ではないため、見つけること自体かなり難しいと思っている。まさか全ての警察官に暗視ゴーグルを支給するのか?とかすみは勘繰ってしまう。何れにしても、この場で何か結論が導かれることは無く、ただし黙って事の成り行きを見守り続けることは警察としては出来ない。そこでサイバー犯罪対策課と協力して、このポータルに関する話題がネット上に現れた時、それを削除するとか投稿した人物を追跡するなどで当面対応するしかないと、内藤第一課長はそう結論付けた。その後かすみと神室霊華は2人に見送られて警視庁を後にした。
ところで、廃病院のポータルから連れ出された指名手配犯のだが、その後警視庁に護送され取り調べをするに至るのだが、精神に異常をきたしており、只管「殺す、殺す、殺す」と喚き続けた。そこで精神鑑定を行ったところ、重度の精神疾患にあることが分かり、結局不起訴となった。ただしそのまま釈放される訳ではなく、精神病院で半永久的に隔離されることになったのだった。どうやら、長い年月の間、娯楽も何もない空間に閉じ込められていたことが災いしたようだ。ただ千歳警部補とすると、やはり起訴できなかったことへのたる思いがあるようなのだが、少なくとも内藤第一課長が懸念していた問題に関しては、実はあまり心配することはないのかも知れないと思うようになった。かすみが言うには、あの空間では時間の経過がどうなのかが分からないという。と言うのは、時計そのものが作動しないのだとか。そんな所にほとぼりが冷めるまで隠れ続けて、もう大丈夫だと思って出てきたら千年後だった、となることも十分に考えられるというのだ。ただし、その間に自分の精神がまともなままなのかは分からないのだが。