召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ラハニの誕生日を祝う (前編)
7月最後の週末。最神玲と物部かすみは、何時ものように別荘に来ていた。そして神室霊華も何時ものように別荘にやって来て3人はまったりした時間を過ごしている。かと思われたが、実はそれどころではなく、朝から3人は何やら準備することが多く、忙しく動き回っている。何があるのかと言うと、かすみの二番弟子であるラハニ・カヤンの誕生日がこの別荘で行われることになっており、その飾りつけや食事の準備に余念がないのだ。実はラハニの誕生日は翌日の日曜日なのだが、時差のことを考えるとこちらで日曜日から月曜日の夜中開催となってしまう。そこでかすみがラハニと事前に相談した所、シアトルの現地時間の金曜日の夜から、ラハニの夫のロドニーは夜間勤務に就くため、午後8時以降であれば自由になるという。日本の時間では、土曜日の正午ということになる。そして数時間程、ラハニは日本に滞在しながら彼女の誕生日を別荘で祝うことになった。
そんな状況で別荘に滞在中の3人だが、神室霊華は料理を担当し、玲とかすみは飾りつけと、後は誕生日ケーキを取りに行くことになっている。そして、かすみと玲が飾り付け作業をしている時、玲に向かって
「やっぱ、この別荘があって良かったよなー」
とそう呟いた。玲も「本当そうだね!」と心からその言葉に同意した。そもそも別荘を建てることを思いついたのは、昨年の秋に行った神室霊華の誕生日会があったからである。あの時、どこで祝おうかと言うことで玲とかすみは悩んでいたのだが、そんな時に別荘の話が出たのだ。そして今こうして、漸くその目的を達成したことで、かすみは満足な表情を浮かべていた。
その後飾りつけが上手く出来た所で、玲はケーキを取りに行くことにした。今回も米野市内の洋菓子店にしようかと考えたが、久し振りにあそこのケーキを食べたくなったのでそこに頼むことにした。そこは、大学生の頃、かすみとよく通った東洛市内の洋菓子店エスタシアである。そこで玲は早速東洛市内の洛王神社に転移し、そこからエスタシアに向かった。今日は何やら混んでいて少し待たされたりしたものの、予約しておいたホールケーキを無事ゲットし、再び洛王神社に戻りそこから別荘に転移した。時間まだ午前11時半過ぎである。もう少ししたらかすみがラハニを迎えに行くことになっており、今はリビングで寛いでいる。
「しかし、東洛市内は、やっぱ暑いなー」
と玲は額に汗を搔きながら戻って来て、とりあえずケーキが溶けてないかを確認した。特に問題はないので一度冷蔵庫に仕舞っておく。そして改めて思うのだが、この別荘のあるこの土地は意外と涼しいのだ。尤もまだひと夏越えていないので何とも言えないのだが、神室霊華の住む東京都内は既に熱帯夜であるという。だがこの別荘では、今のこの時期でも夜は20℃を下回り、日中でも25℃を越えることはまだ経験していない。そのため、別荘内にはエアコンを取りつけていない。もし万が一30℃を越えそうなら、玲は何か考えるつもりでいる。ただしエアコンをつけるのではなく、もうお分かりかと思われるが、ヘキサグラム型召喚門による”魂の門を叩く者”、あれを召喚して急速冷却させるつもりなのだ。ただそうなると、この辺だけ猛吹雪に見舞われてしまうが、幸い外から見られる心配はない。と言うよりも、余りに暑くてそんなことに構っていられなくなるだろう。
そんなことを考えながら、玲も汗が引いたところでソファーに落ち着き、昼のニュースを見ようとテレビをつけた。暫くニュースを見ていると画面から「ピロン、ピロン」と警告音みたいな音が流れて来た。どうやらニュース速報のようなのだが、それを見た玲は
「全く、遂にあの国が核実験再開だってさ」
と誰にともなくそう愚痴を零した。玲が指摘するあの国とは、北にある某独裁国である。尤もそんな国で核実験が再開されたとして、彼らの生活に何か影響がある訳でもなく、かすみはスマホを弄りながら「ふーん」と無関心であった。だがこの出来事は、後に彼らの間に暗い影を落とすことになるとは、この時全く予想していなかった。
そろそろ迎えに行く時間になったところで、かすみが
「ほな、ラハニさん迎えに行ってくるな!」
と言いおいて転移した。そして5分程すると、ラハニを連れて戻って来たのだが、彼女の肩からぶ下がっているスリングには、彼女の生まれたばかりの子供タホマがスヤスヤと寝息を立てていた。そのため、何時もは元気に挨拶をするラハニは、かなり声を落として「ミナサン、コンニチハ」と挨拶するに留めた。だが赤ちゃんは、何やらいつもと違う空気を感じたのか、スリングの中で目を開けて母親の顔をじっとみつめた。そんな息子をラハニはスリングから出して早速あやすのだが、特にぐずることなく大人しくしている。するとラハニは、今来たばかりであるが
「イマカラ、オンセンハイッテモイイデスカ?」
と誰にともなく尋ねるので、かすみは「そんなん、断らなくても何時でも入ってかまへんよ」と言いながら、「ほな、うちも入ってこよー」と言ってラハニとタホマと一緒に露天風呂に向かった。そして神室霊華も手を休めて、玲に「すいません、私もご一緒しますが宜しいですか?」と丁寧に尋ねるので、玲は「気にせず、入ってきてくださいね」と言って彼女達を送り出した。玲はまだ準備が途中な所があるので、その準備を進めることにした。
30分程すると、3人+1人が戻って来た。体からはまだ湯気が立ち昇っており、かすみに至っては自分の手で顔を扇いでる。ラハニはと言うと、大満足であったようだ。そして、
「タホマモ、ヨロコンデタ」
と嬉しそうに玲にそう報告した。聞くところによると、かすみが少し大きめの風呂桶を召喚し、そこに露天風呂のお湯を張ってタホマを3人で湯浴みさせたという。そんな彼女達のために、玲はその場に扇風機を召喚し、3人に涼んでもらうことにした。それから玲は、早速ラハニの誕生日会を進めるために、リビングのテーブルに神室霊華が朝から準備していたローストビーフを始めとして、スープやサンドイッチなどを並べた。その時かすみが、
「ラハニさん、このお皿、
全部霊華さんが作ったんやで!」
と報告すると、ラハニは目を丸くして、色とりどりの陶芸皿を眺めた。そして
「ス、スゴイデスネ、レイカサン。
モウコレデ、タベテイケマスネ」
と感想を口にした。確かに素人目で見ても、どの皿も綺麗な色どりと柄をしており、しかもどれ一つ同じものがない。その時かすみが、
「天は二物を与えずって言うけど、あれ、嘘やな!!」
「霊華さんはしっかり二物持ってるしな!」とお道化ながら感想を伝えた。すると神室霊華は顔を赤くしながら、
「師匠、止めてください。
そんなことありませんから」
と否定するも、かすみは「ホンマ、凄いねんなー」などと感心しており、結局神室霊華の言葉は聞いていない。そんなリビングの様子を目にしながら、玲は冷蔵庫からケーキを取り出し、テーブルの上に並べた。美味しそうなエスタシア名物レアチーズケーキのホールには[らはにちゃん おたんじょうびおめでとう]と書かれたチョコプレートが真ん中に鎮座している。そしてかすみがロウソクを立てて火をつけてからリビングを一度暗くし、皆でハッピーバースデーを歌ってお祝いした。ラハニが無事にロウソクを吹き消した所で、部屋を明るくすると、早速かすみの何時ものエアマイクによるインタビューが始まった。
「放送席、放送席、これからラハニ氏の
インタビューを始めます!」
で先ずは始まり、続けて
「ラハニさん、先ずはお誕生日
おめでとうございます。
今のお気持ちをどうぞ!」
「ハ、ハイ、ミンナニタンジョウビ
イワッテモラッテ、ウレシイデス!!」
「そうですか、それは良かったです。
ちなみに、今年でお幾つになられたんですか?」
「エート、タホマトオナイドシデス」
これにはかすみはずっこけた。そして直ぐに
「ほ、ほな、生まれたてと
言うことになりますか?」
「スイマセン、ウソツイテマシタ。
タホマノヒトツウエノ、オネエサンデース」
と再びボケたことで、かすみは新喜劇の転びを披露した。これにはラハニは手を叩いて大喜びした。そして
「ほ、放送席、こちら再起不能です。
マイクをそちらにお返しします!」
と言って終了した。とうとうラハニもかすみの影響を受けだしたことに、玲は懸念を示しつつあるが、まあ本人が楽しければそれで良いかと思い直した。そして次はプレゼント贈呈であるが、先ずは玲が
「ラハニさん、いよいよ今日、
レベルアップしますよ!!」
「アー、レイサン、ナンカキンチョウシマス!!」
と言って、胸に手を当てて落ち着こうとしていた。そして玲が「先ず今の状態を確認するので、手を握りますね」と言ってラハニの両手を握った。玲は、フムフムと頷いて今の状態を確認した。それから、傍に置いていたエンペリアンを取り出し、ラハニの前に置いた。ラハニは昨年神室霊華がそれを触れたことで召喚エネルギーが大幅に増えたことを覚えており、それを目にした途端、目を輝かせた。だがやはり緊張のためか、一度深呼吸をして恐る恐るエンペリアンに触れた。すると、ピクッ、ピクッと体が震えた。そして落ち着いたところで、玲がもう一度ラハニの手を握った。すると、
「う、うーん?おー、そうなったか!」
と何やら不思議なリアクションをしたので、かすみは「玲、どないやねんな!?」と心配そうに玲に尋ねた。すると
「うん、恐らくだけど5割アップは越えて、
7から8割アップと言う感じだね」
「ほな、大成功やな!!」
「うん、今のラハニさんの召喚エネルギーなら、
もしかしてここから美土路神社には
転移出来ると思うよ」
とかすみとラハニ向かってそう伝えた。ただし、
「ただ往復するのはちょっと
きついかもしれないけど、
それはまた訓練で幾らでも増えるからね」
やはり日々の訓練は大事であることを伝えた。するとかすみが、
「ほな、うちがサポートするから、
一度美土路神社に転移してみる?」
とラハニ尋ねた。ラハニはどうしようか躊躇するが、やはり自分の今の実力を測るにはそれが一番だと思い
「カスミサン、オネガイシマス!」
と言って転移の準備を始めた。玲は「かすみ、絶対無理させないようにね!」と念押しするが、かすみは
「そんなん当たり前や!
心配すんなっちゅうの!!」
と少し切れ気味に玲に答えた。そしてラハニは、美土路神社の転移門マーカーを見つけて転移を行った。かすみもその後に一緒について行った。そして直ぐにかすみがラハニを連れて戻って来たが、ラハニは特に疲れた様子もなく、元気に「アノキョリヲテンイデキタンデスネ?」と驚いていた。これで彼女の目的に少しだけかもしれないが近づいたとみて良いだろう。そして念のため玲がラハニの手を握ると、
「うん、やはり往復するとちょっとまだ危ないね。
一応念のため、ラハニさんの召喚エネルギーを
回復しておくね」
と言って、玲は自分の召喚エネルギーをラハニに注入した。するとラハニは増々元気になったようで、その場で何やら元気に踊り出したりした。それを見た玲は呆気にとられるが、かすみと神室霊華は踊りに合わせて手を叩いてし立てたりした。