召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ようこそ地球へ (前編)
この宇宙のどこにあるか分からない惑星サモナルド。そのサモナルドから3人の要人と1人の超VIPを召喚術を駆使して招待する日がいよいよ数日後に迫った。そしてその日を迎えるにあたり、最神玲はサモナルドからの転移者であり、今は地球に残っているファッションブランド・ロムリアの現社長のエレナ・ニールバウムと、その秘書のゲラルド・エクセルガーと共に、3人をどこで召喚するか、その後どこに滞在してもらうか、どこをいつ訪問するかなどの綿密なスケジュールを立てていた。3人+1人の滞在期間は、昨年玲がロムリアに滞在した時に、同じ期間での滞在にしようと決めていたので、大体2週間程と考えている。勿論こちらとしては滞在期間をそれ以上にしてもそれ以下にしても問題はなく、その辺は臨機応変に応じるつもりでいる。それと滞在中の宿泊場所については、元はタチアナ個人の所有で、今はロムリアの会社所有となっているフランス中部にある別荘にした。そこであれば外部との接触は断てるし、8月中の社員の利用は禁止しているため、滞在に関して全く問題はない。それと3人の召喚場所についても、この別荘内の広いリビングの一角とした。そして今、玲とエレナとゲラルドの3人は、元タチアナの別荘にて最終確認をしている所である。
「滞在期間中の食事等に関しては、
必要な物は全てこちらで
用意することになっています」
とゲラルドが報告をした。そして
「あと、特に問題がありそうな点ですが...
レイさん、何かありますか?」
とエレナが玲に問い掛けた。玲も特に問題は見当たらないことを伝えるが、そう言えば一つだけ懸念点があることを一応伝えることにした。それは
「もしかしてですが、
地球の空気って凄く汚いですよね。
それに辟易しないかと心配なんですが...」
という懸念である。残念ながら、エレナとゲラルドは、地球での生活が長いため、その点に関して問題にすることすら忘れていた。だが、玲は昨年サモナルドを訪れており、余りの空気の綺麗さにビックリしたことを今でも鮮明に覚えており、その点を唯一の懸念材料としたのだ。ただ幸いにも、この別荘地の周りには、大きな工場や大都市が無いため、比較的綺麗な環境が保たれている。場合によっては、空気清浄フィルターを内蔵した不織布マスクを召喚して使ってもらうことを玲は考えたりしていた。この場合、空気中から汚れた成分を除去するだけなので、召喚物を使っても問題は無いことは確認済みである。
現状考えうる問題点は全てクリアしたと思われるので、後は当日ここに集まって3人を召喚し、その後歓迎会を開催するだけである。なおその時は、地球に残る残留組が全員集まる予定である。そしてその後は、スケジュールに沿って進めるのだが、そんな時にゲラルドが
「しかし、現役の大臣2人が
こちらに来られるとは...」
ロムリアは大丈夫なのかと心配そうにそう口にした。これに対し、玲は
「エンペラールさんが言うには、
『12人全員いなくても何とかなるわよ!』
と笑いながら仰ってましたから、
多分大丈夫なのでしょうね」
と昨年のエンペラールの言葉を添えてそう伝えた。それから最終チェックを行って、数日後の正午に再びここに集まることでその日は解散となった。
ところで、玲にはもう一つの問題が残されている。それは超VIPの召喚である。一国の元首とも呼べるロムリアの国王ロメロ5世を何時どのタイミングで、どこに召喚するかであるが、召喚場所についてはM Mの別荘にする予定である。あそこであれば地球に残るサモナルドからの転移者は誰もその存在を知らないし、タチアナの別荘と同じく、周りから完全に隔離された環境にあるため、人目を気にすることは無い。後は時間だが、タチアナ達の召喚後、数時間空けてから召喚するようにタイミングを見計らっている。その後直ちにロメロ5世をチーターの元に連れて行くのだが、念のため事前に相談したいことがあることを伝えており、訪問することの了解は得ている。後はチーターが色々と世話をしてくれるだろうと期待し、玲としては一旦そこで離れることにしている。そしてこれ以上何か考えだすと止まらなくなりそうなので、玲はそのままM Mの別荘に行き、何時もの工房に向かってそこでアーティファクトの制作にしむことにした。
7月最終日、後5時間経つと日付が変わり8月になる午後7時の日本。玲は美土路神社の自宅にて3つの降霊転移門を設置し、それぞれの降霊転移門に事前に渡されている血液を少量含ませた脱脂綿を置いた。そしてきっちり30分後、召喚を解除した。そしてきっかり24時間後、フランスの時間では正午になるが、元タチアナの別荘において3人の要人を召喚する。だがその前に、もう一人の召喚準備を忘れてはいけない。そこで念のため4時間のインターバルをおいて、日本時間の午後11時に30分間の召喚による呼び出しを行った。地球の日本の夜中に呼び出されるとは非常識に思われそうだが、そのまま日本に滞在してもらう訳ではなく、直ぐにチーターが住むイギリスのロンドンに転移するため、時間的にはこの方がベストであった。そしてすべての準備が無事終わったところで、玲は床に就いた。
翌日は平日のため、玲は相棒の物部かすみと共に、美土路神社の社務所で何時もの仕事をした。それでもやはり今日の召喚が無事にできるだろうかと心配になったりして緊張していたためか、朝から表情が硬いようで、かすみに
「玲、そんなあれこれ考えて
緊張してもあかんやろ!」
と叱咤されてしまう。だがかく言うかすみも、少しだけ緊張をしていたのだが、実は今日の歓迎会にかすみも同行することになっていたからである。2年振りにタチアナと会うことへの嬉しさと相まって、何を話そうか色々考えると緊張してしまうようなのだが、そうなると結局は玲と似たり寄ったりになってしまう。
それでも何とか無事いつもの仕事を終えて2人は自宅に戻って来た。そしてかすみはこの日のために用意した自作の白いノースリーブの膝上丈のワンピースに着替え、左胸の所にルビーをあしらったブローチを留めた。そして玲も白いTシャツの上にベージュのサマースーツに着替えてこちらも準備が整った。後は出発時間を待つだけである。ちなみに、何時もならこの時間になると神室霊華がやって来るのだが、事前に今日のことは伝えてあり、神室霊華は今晩だけ一人寂しく自宅で過ごすことになった。そして午後7時10分前になったところで、玲は血液の入ったケースを鞄に入れ、それをがけにしてからかすみの部屋に向かった。そしてかすみを呼び出して2人でフランスの元タチアナの別荘に向けて転移した。
元タチアナの別荘の広いリビングには、既に地球残留組の人達が全員顔を揃えていた。そして玲はお互いに旧交を温めつつ、同行しているかすみを紹介した。それから正午になったところで、玲はリビングの一角に移動し、そこに降霊転移門を3つ用意した。まずはタチアナの血液を取り出し、それを脱脂綿に含ませてから降霊転移門に置いた。そして1つ深呼吸をしてから「召喚」と叫んだ。すると少し間があったものの、降霊転移門の中に久し振りに会うタチアナ・エグリスコバが姿を現した。そのタチアナの姿を見た参列者は全員、歓喜の雄叫びを上げた。
その後すぐに玲は、エンペラールの血液を同じように脱脂綿に含ませてそれを別の降霊転移門に置いた。そして「召喚」と叫ぶと、そこには大召喚術師でありロムリアの大臣の1人であるエンペラールが姿を現した。玲とエレナ、そしてゲラルド以外、誰も現役の大臣が召喚されるとは思っても見なかったようで、エンペラールの姿を目にした途端、残留組全員が呆然と立ち尽くしていた。だが直ぐに誰かがサモナルド式の最上級の礼を行うと、それに倣って全員がその場でエンペラールに礼を行った。
そんな彼らの行動を他所に、玲はもう一人の召喚を行った。そしてそこに現れた人物を目にした途端、やはり残留組全員、ほぼ思考が停止したかのように呆けてしまって誰も言葉を発しない。そこには、玲に地球への召喚を申し出たもう1人の現役のロムリアの大臣であり、軍事部門を統括するカステリアルその人が姿を現したからだ。そしてやはり誰かがカステリアルに対し最上級の礼を示すと、皆それに倣ったりする。そして無事にロムリアから3人の要人を召喚出来たことで、玲はこのとき「ふぅー」と大きく息を吐いた。どうやら知らない内に呼吸することを忘れていたようだ。何とか大役を終えた玲は、直ぐにタチアナから、「レイ君、有難うね!」と熱烈なハグを受けた。玲は照れ笑いしながら「皆さん、無事に召喚出来てなによりです」とそう口にした。そして先ずはタチアナからその場に居る全員に向かって挨拶が行われた。
「皆さん、ご無沙汰してます。
皆さんの元気な姿がまたみられて、
感無量です」
と少し涙ぐみながらそう語った。そしてその場に居る残留組全員も、感動で目に涙を溜めながらタチアナの挨拶を聞き入った。それからタチアナは、そのまま師匠であるエンペラールに体を向けて、「先生、何かお言葉をお願いします」と言われたため、エンペラールは少し緊張の面持ちをしつつ、先ずは玲に向かって
「レイさん、有難うございました。
また会えましたね。それと皆さんは、
サモナルドから遠く離れたこの惑星で
無事元気に過ごされいてることを目にして、
心を打たれました」
とその場でサモナルド式の挨拶を行った。そして最後にカステリアルが
「自分は、こちらのレイ・モカミ師に
無理をお願いして、地球に呼んで頂きました。
皆さんのご迷惑にならないように、
でも出来るだけ地球の事を学んで
帰ろうと思います」
と少し、いやかなり緊張した表情で挨拶を行った。そしてその後3人は、一旦エレナの案内で別荘内で宿泊する部屋に向かった。それから3人を囲んだ歓迎会が開催された。